月刊OPTRONICS 特集序文公開

メタサーフェスを利用したフルカラーホログラフィの開発

1.はじめに
ホログラフィは光の波面自体を記録・再生する技術であり,図1 のように眼鏡などを装着することなく立体像を観察できるため,究極の立体ディスプレイとも呼ばれる。1947 年にD. Gabor によって発明され,レーザの普及とともに広く利用されるようになった。光波面の記録媒体はホログラムと呼ばれ,光硬化性樹脂が広く利用されてきた。記録にイメージセンサを,再生に空間光変調器(Spatial Light Modulator:SLM)を用いるディジタルホログラフィは動画の再生ができる。また波面を人為的に求める計算機生成ホログラフィ(Computre GeneratedHolography:CGH)では,撮影工程を必要としないので自然界に存在しない物体も表現できる。 ホログラフィの性能指標の一つに,像を立体的に観察できる範囲を表す視域角Ψ があり,以下の式で表される。

  (1)

ここでλ は波長,pは媒体の画素ピッチであり,pが小さいほど視域角は大きくなる。ところがマイクロミラーや反射型液晶などの従来のSLMではp が数μm~ 10 数μm程度と大きく,可視波長において視域角が狭いという問題があった。 一方,光波長以下の周期で配列された誘電体柱構造(メタ原子)によって光波面を再現するメタサーフェスが近年注目を集めており,レンズや構造化照明に利用されている。メタサーフェスをホログラムに応用すると,視域角を非常に大きくできる点が有利である。光学特性が製造時に固定されるため,動的に絵を切り替えることが難しかった。

メタサーフェスに動的な機能を持たせるための工夫はいろいろあるが,大別すると可変メタサーフェスと情報多重化の2 つに分類できる。前者では,基板の伸長,化学反応,相変化材料などが用いられるが,可変できる状態が2状態から多くても4状態程度と,動画を出すには少ない。後者では,偏光多重化,トポロジカルチャージ,空間多重化などが用いられる。このうち,後ろ2 つは数10状態をとることができ,動画の投影に有利である。このうちトポロジカルチャージでは投影像の高解像度化とクロストーク抑制に課題がある。そこで我々は,空間多重化の1 形態であり,フィルム映画と類似の手法である空間多重化に着目している。さらに,空間多重化の場合,図3に示すように基板上で色(波長)チャネルと時間チャネルを分けることにより,カラー動画の投影が可能となる。一方式⑴に示すように視域角が波長ごとに異なるため,複数波長の画像を重ねてカラー投影するには工夫が必要となる。

本研究では,フィルム映画と同様に,映像フレームが記録されたメタサーフェスホログラムをステージ駆動して切り替えるシネマトグラフ方式によって動画の再生を試みた。また,波長による回折角の変化を逆算する設計法を考案し,任意の強度で3 原色を重ねることでカラー動画を再現する技術の確立に挑戦した。結果として,超高速電子線描画装置を用いて3 波長×30 コマのメタサーフェスを作成し,順次照明することで,再生速度55.9Frames per second の投影に成功した。

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