月刊OPTRONICS 特集序文公開

レーザーピコ秒超音波法による透明物質中の音速・屈折率・歪み分布の顕微イメージング

1.はじめに

超音波は,従来は可聴周波数より高い周波数の音波と定義されていたが,昨今では「聞くことを目的としない音波」のことも超音波という。音波はあらゆる物質中を伝搬し,疎密波である縦波の音速は,媒質が気体・液体の場合には密度ρ と体積弾性率Kを用いてとなる。弾性的に等方性な固体の場合には,剛性率(せん断弾性率)Gも加わり縦波速度が,横波速度がとなる。さらに結晶などの弾性的非等方媒質になると縦波・横波の速度も伝搬方向によって変わってくる。つまり音速から,物質の弾性定数に関する情報が得られる。音速の測定は,透明で均質な物質の場合にはブリルアン散乱(光がフォノンによって散乱され周波数が僅かに変化する現象)により可能であるが,試料内の局所的な部分の音速の測定は困難である。

一方,音波が物質中の様々な構造不均一性によって散乱されるという性質を利用して,超音波は魚群探知や内臓の超音波診断,建造物の非破壊検査など物質の内部構造の探査にも使われている。これらの方法の空間分解能は超音波の回折限界のため波長によって制限されるため,小さな構造を観察するためにその周波数を高くしたい。しかし,一般的な圧電体超音波トランスデューサは数10 MHz 以上の超音波発生にはあまり適していない。より高い周波数の超音波を発生させる有効な方法として,超短光パルス(ポンプ光)の照射による物質中の急激かつ局所的な熱応力発生を用いるものがあり,数10GHzから原理的には1 THz を超える周波数成分を含む超音波パルスを発生することができる。この発生・伝搬した高周波数の超音波の検出も時間遅延させた別の超短光パルス(プローブ光)を用いて可能である。このポンプ・プローブ法で超音波パルスを測定対象中に励起・検出する測定手法は,レーザーピコ秒音響法やレーザーピコ秒超音波法と呼ばれる。

レーザーピコ秒超音波法の測定対象となるものは,金属・半導体・誘電体の単層・多層薄膜や微細構造をもつ試料など多岐にわたる。例えば多層膜試料にこの測定法を用いると,各膜厚や界面特性などの非破壊検査が可能となる。試料がプローブ光に対して不透明な場合には,超音波パルスが試料表面付近(プローブ光の光侵入長程度)に到達した場合のみ光反射率が変化する。一方,透明な場合には,試料内部での光弾性効果による屈折率変化によっても光反射率が変化する。これは前述したブリルアン散乱を,光の周波数変換ではなく光反射率の時間変化で観測しているという見方もでき,この方法による音速の測定法は時間領域ブリルアン散乱法とも呼ばれる。この時間領域ブリルアン散乱法では,各時刻において超音波パルスの存在する領域の音速を計測することになるので局所的な音速を計測することができる。

本稿では,この時間領域ブリルアン散乱法における我々の研究である音速と屈折率を試料の深さ方向にマッピングする方法や,深さ方向の超音波パルスによる歪みの分布の時間変化,つまり超音波パルスの伝搬を可視化する方法を紹介する。

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