月刊OPTRONICS 特集序文公開

総論

現代の科学技術は,目に見えない現象を可視化することにより,新たな発見と理解をもたらす方向へ進化してきた。可視化技術は,材料科学,バイオメディカル,化学,物理学など,さまざまな分野において革新的な進展を促す。特に最近では,可視光以外のプローブを使うことにより,これまで困難とされた測定対象や事象の可視化が可能になりつつある。

特集『可視化技術の新展開とその応用』では,新しい視点に基づいた可視化技術の新展開とその多様な応用について紹介する。具体的には,「テラヘルツ波」「中赤外光」「超音波」「磁界」を用いた可視化技術にフォーカスする。これらの技術は,独自の物質相互作用を介して,これまで明らかにされなかった現象や構造を解明することが期待されている一方で,既存の可視化手段には課題があった。そこで,光学的アプローチを導入した最先端の可視化技術を紹介し,その原理や具体的な応用例について解説する。

1つめのトピックスは,「THz 波を用いた遮蔽物越しのシングルピクセル分光イメージング」である。テラヘルツ波は,X線と異なり非侵襲に内部構造やその化学成分を可視化できる手段として,非破壊検査や物質分析などでの利用が期待されている。

一方で,テラヘルツ帯におけるカメラが技術的に未成熟で,社会実装の障害となっていた。そのような問題を解消するアプローチとして,空間変調照射パターン群とそれに対応した点型検出器信号群の相関性から画像再構成を行うシングルピクセルイメージングのテラヘルツ帯における利用について紹介を頂く。

2つめのトピックスは,「サブハーフサイクル中赤外パルスを用いたケミカルイメージング」である。中赤外光は分子の振動・回転に敏感であり,化学組成を高感度で検出することが可能であるが,テラヘルツ領域同様,カメラ技術が未成熟である。

そこで,超短パルス光による非線形光学効果であるアップコンバージョンを利用することにより,中赤外の分光イメージ情報を近赤外光に転写し,既存の近赤外カメラで分光イメージ取り組みを行う技術に関して紹介していただく。

3つめのトピックスは,「レーザーピコ秒超音波法による透明物質中の音速・屈折率・歪み分布の顕微イメージング」である。超音波はバイオイメージングや非破壊検査手段として広く利用されているが,ピコ秒レーザーを利用することで,電気的手法では生成困難な超高周波な超音波パルスを生成可能になる。

このような高周波超音波パルスの特徴を利用すると,高い空間分解能でのイメージングや超高速現象の可視化が可能になる。これらの研究進展や応用可能性について紹介を頂く。

最後のトピックスは,「光を用いた磁界分布の可視化」である。磁気センシングは,無線電力伝送デバイスの評価や生産ラインの異常検知といった応用が期待されている。従来の磁界分布測定で利用されてきたコイルを用いる代わりに,光で磁気を読み出すことにより,非侵襲性や高空間分解能を始めとした様々なメリットが期待できる。このような光学的磁気測定手法に関する研究の進展と応用展開を紹介いただく。

本特集により,新しい視点に基づいた可視化技術がどのように実現され,どのような可能性を秘めているのかを理解していただき,さらなる研究や応用のヒントとしていただければ幸いである。

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