富士通と富士通研究所は,半径数キロメートル(km)規模をカバーする大容量無線ネットワークに適用可能な,窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT)を利用したW帯(75から110GHz)向けの送信用高出力増幅器(パワーアンプ)を開発した(ニュースリリース)。
光ファイバーの敷設が困難な地域などにおいて,毎秒数ギガビット以上の高速無線通信を実現するには,広い周波数帯域を利用できるW帯などの高周波数帯を使った無線通信が有望だが,数km以上の遠距離伝送には,パワーアンプの出力電力をワット級まで高める必要がある。
今回,100GHzにおいて高い出力が可能なGaN-HEMT技術を応用し,W帯送信用パワーアンプの開発に成功した。
パワーアンプの設計において高い出力性能を達成するために,まず,GaN-HEMTを高周波動作させたときの特性を高精度に測定してモデル化を行ない,それをもとにGaN-HEMT2つを1組にした電力損失の少ない小型・高利得ユニットの回路設計を行なった。このユニットは最大パワーが得られるように配線やデバイスの配置を工夫した整合回路を用いてGaN-HEMTを直列に接続している。
この小型・高利得ユニットのモデルを用いてユニット間の分配・合成部分の整合回路とその配置・配線をシミュレーションにより最適化することで,高い増幅度を持つパワーアンプを実現した。
試作したパワーアンプの増幅度は入力に対して80倍で,1.15ワットの出力電力を達成した。パワーアンプの性能を表すトランジスタ当たりの出力電力は,世界最高のゲート幅1mmあたり3.6ワットを実現している。
開発したパワーアンプを評価した結果,従来と比べて1.8倍の出力性能を確認した。これにより高速無線ネットワークにおいて約30%の長距離化が可能になるという。
同社ではこの技術を大容量・長距離無線通信が望まれるパワーアンプの開発に幅広く適用し,災害時に光ファイバーが断線した際や,イベント開催時に臨時的に設営する仮設通信インフラに適用できる高速無線通信システムの実用化を目指すとしている。