産業技術総合研究所(産総研)と光ディスクの検査装置メーカのエキスパートマグネティックスはDVDの光学系を応用し、ディスクをプレパラートに見立てた微生物検出装置を開発している。
これは記録層を付けていないDVDディスク基盤上に検査対象となる環境水を滴下し、乾燥させてDVDと同じ要領で読み取ることで、ディスクに付着した微生物を検出するというもの。原理的にはDVDの信号を記録する溝(トラック)の間隔以上の大きさがある微生物ならば認識することができる。具体的にはディスク中心から外側方向には0.66μm、トラックに沿った円周方向には0.125μmの解像度があるとしている。大腸菌の大きさは3μm程度のため、これは細菌の検出には十分な数値だという。
ディスクから読み取った情報は、画像データ化してデータベースとマッチングすることで、細菌の種類と数を自動的に特定する。また蛍光観察を併用することで、試料中に含まれるゴミなどと細菌を区別することも可能だとしている。高速で回転するDVDディスクだが、乾燥させてしまえば細菌などが飛び散ってしまうこともないという。
この技術は、従来の方法に比べて高速で検出できる点が最大の特長だ。例えば光学顕微鏡を用いた検出の場合、DVDの面積である100c㎡の検査には走査に約22時間(40倍のレンズで2秒/枚で手動観察)かかるが、開発した技術では約0.2時間(DVD6倍速)で完了する。また寒天培地などを用いる培養法では、菌を培養するのに1日~数日を要するが、この技術ならばディスク上の環境水が乾けばすぐに観察を開始できる。
開発グループでは今後、細菌識別用データベースを充実させるとともに、解像度のさらなる向上、処理ソフトの作製、装置の小型化などを進めていくとしている。特に解像度については、現在トラックの凸部分だけを観察しているのを、凹部分も観察することで、ディスク中心から外側方向への解像度を2倍に向上することを検討しているという。
DVDというコモデティ化した技術を応用しているので、装置自体も小型で安価なものができる可能性が高い。研究グループは、将来的には途上国など、高価で専門知識を要する検査方法の普及が困難な地域にこの装置を普及させ、世界中の誰もが安全な飲み水を手に入れることができるようにしたいとしている。