テレビやデジタルカメラ,LED照明,双眼鏡,天体望遠鏡など普段我々が目にするこれらの製品には光学設計技術がふんだんに盛り込まれている。さらにレーザや大型天体望遠鏡などハイエンドなものになればなるほど,光学設計は高度な技術が求められる。
月刊OPTRONICS 3月号では「先端光設計のトピックス」と題する特集が企画されているが,この中で①量子情報処理研究を支える光学系の設計,②すばる望遠鏡における光学系の設計,③モバイル製品に不可欠な光学設計における製造誤差感度の制御法,④車載用プラスチック光ファイバの光学設計が取り上げられている。コニカミノルタテクノロジーセンターの宮前博氏は,それぞれの解説について次のようにコメントしている。
①に関しては,量子光学研究の第一人者で量子テレポーテーションの実現を目指す東京大学教授の古澤明氏によるものだが,「量子情報処理研究の実験に用いる超精密な光学系がどのように設計・製作されているのか,という観点で解説されている」とし,量子光学の先端的な研究に使われている道具としての光学素子もあるという話題としている。
②は,ハワイ島マウナケア山頂に建てられている口径8.2mの巨大な望遠鏡を持つすばる望遠鏡に関し,「通常の光学系では到底考えられないような究極の技術を積み重ねた成果が分かりやすく解説されている」と述べられている。このすばる望遠鏡は0.5度という明るく広い視野角を持っているのが特長だが,さらに3倍もの広い視野角を実現させるために,新たに直径約1m,全長約2m,総重量1トン近くに及ぶ補正光学系が作製されたという。これは屈折系7枚玉の構成だが,レンズ部分の総重量が400kgというもので,宮前氏が指摘する「究極の技術」とは,この重量を支える鏡筒構造や環境の温度などの影響も許容値内に抑えるための最適な材料選択などのことを示している。
③は,デジタルカメラやスマートフォン用カメラの光学系などにおいて設計上の重要な課題とされている「製造誤差感度の制御方法」を解説したものだ。宮前氏によれば,「これらを構成する光学系の薄型コンパクト化は進んでいるが,如何に製造誤差感度を抑えて高解像度と軽薄短小を両立させるかが,光学設計で最も重要な課題の一つになっている」としている。今回解説しているのはレンズ設計コンサルタントの矢部輝氏だが,これを解決に向けるものとして,光路長の誤差変化を利用して最終性能に十分な相関がある評価値を導き,実際の光学設計を行なうことでその効果を確認したようだ。
④については,宮前氏が言うには「コンベンションなレンズとは異なるものとして,車載用のプラスチック光ファイバ(POF)の実用化に向けての現状と課題」が取り上げられているとする。POFは石英系ファイバに比べて長距離伝送に向かないものの,帯域特性や曲げ特性,取扱やすさ,コストなどでアドバンテージがある。POFは車載通信用として約12年前から実用化されているが,さらなる性能向上に向けての研究・開発が取り組まれている。
光学設計技術は日本が世界に誇れるもので,多くの光学部品が海外生産に移行する中にあっても,ハイエンドな製品開発・生産は日本国内で行なわれているのも少なくない。今後,製品開発に必要不可欠な光学設計技術の新たな展開が注目されるところだ。【三】