2. 電子波長制御Cr:ZnSeレーザー
2.1 電子波長制御Cr:ZnSeレーザーの光共振器と電子波長制御法
Cr:ZnSeレーザーの波長を選択するための素子として音響光学波長選択フィルター(Acousto-Optic Tunable Filter:AOTF)15, 16)を搭載した電子波長制御Cr:ZnSeレーザーについて説明する。図1に電子波長制御Cr:ZnSeレーザーの概略図を示す。本研究ではCr:ZnSeレーザーの励起光源として,波長2.01μmで発振するTm:YAGパルスレーザーを用いた。パルス幅は160 ns,繰り返し周波数は10 Hzの時に,最大128 mJの出力エネルギーが得られる14)。レーザー媒質にはディフュージョンドーピング法により育成されたCr:ZnSeを用いた17, 18)。
Cr:ZnSeはCr2+添加濃度が5.5×1018 cm–3,結晶長が7.5 mmのブリュースターカット型を用いた。Cr:ZnSeレーザー共振器は出力ミラー,全反射ミラー,2枚の凹面ミラーを用いてZ字型の共振器を構成した。全反射ミラー側の共振器の片腕に,波長選択素子としてAOTFを挿入した。これはCr:ZnSeレーザーの波長掃引方法として電子波長制御法を用いるためである19, 20)。
本手法はAOTFの動作原理をレーザーの波長選択素子として応用するものであり,それは異方性媒質内の音響波による光の回折現象(音響光学効果)に基づいている。AOTF内部に配置されている複屈折媒質(TeO2)には圧電素子としてトランスデューサが装着されている。
このトランスデューサ―を通じ高周波(Radio frequency:RF)をTeO2に印加することで,TeO2内に音響波が伝搬し,TeO2内で発生する疎密波によって屈折率の周期分布が誘起される。この屈折率の周期分布が光にとって回折格子として作用する。AOTFに印加するRFを1つ決定するとCr:ZnSeの蛍光スペクトルの中から1次回折される波長が1つ決まる。
その1次回折光が帰還増幅されるように共振器を構成することで発振波長を選択することが可能となる。さらにAOTFに印加するRFの周波数と出力を調整することで,発振波長とレーザーの出力エネルギーを自在に制御することができる。本システムでは,RFの周波数と出力は36〜50 MHzと0〜5 Wの範囲内でそれぞれ制御した。