理研ら,レーザ堆積法でイリジウム酸化物の性質を解明

理化学研究所(理研),東京大学,原子力研究開発機構,カナダ トロント大学の研究グループは,原子レベルの超格子薄膜技術を用いてイリジウム酸化物の電子相を制御し,磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることを解明した(ニュースリリース)。

近年,低消費電力デバイス実現のための材料として,トポロジカル絶縁体が注目されている。トポロジカル絶縁体の中には,理論的に実現可能と指摘されながらも,その発見に至っていないものがある。

そんな中, イリジウム酸化物が 新しいトポロジカル絶縁体として期待されている。イリジウム酸化物は,電子のスピンと軌道運動の磁気的な相互作用である「スピン‐軌道相互作用」と,電子同士の相互作用である「電子相関」を併せ持つ。この2つの相互作用の共存はこれまでにない「電子相関の効いたトポロジカル絶縁体」につながる可能性があると指摘されている。

しかし,イリジウム酸化物は結晶構造の種類が少ないため,個別のイリジウム酸化物を対象とした研究は進んできたものの,イリジウム酸化物全体の性質を体系的に理解できていなかった。

国際共同研究グループは,原子レベルで薄膜を積み重ねることができるパルスレーザ堆積法技術を用いて,ペロブスカイト構造を持つイリジウムの酸化物(SrIrO3)薄膜とチタンの酸化物(SrTiO3)薄膜を交互に積み重ねた超格子構造を作製した。

これにより,イリジウム酸化物の電子相を精密に制御することが可能になり,磁性を持った絶縁体相から特殊な金属の一種である半金属相へと電子相が変化していく様子を連続的にとらえることに成功した。その結果,イリジウム酸化物における磁性の出現と絶縁体化が密接に関係していることを明らかにした。

この研究は,スピン‐軌道相互作用と電子相関の系統的な理解をもたらすとともに,イリジウム酸化物において期待されるさまざまな電子相を超格子構造によって自在に制御する可能性を示すもの。

研究グループでは,理論で予測されながらも発見されていない新たな種類のトポロジカル絶縁体の実現,さらには低消費電力デバイスへの応用が期待できるとしている。

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