東大,光で自在にゲノム編集をする技術を開発

東京大学の研究グループは,「ゲノム編集」と呼ばれる遺伝子の改変操作を,自由自在に光で制御する技術を開発した(ニュースリリース)。

ゲノム編集を行うためには,ゲノム上の狙った塩基配列をDNA切断酵素(Cas9タンパク質)で切断する必要がある。しかし,従来の技術ではCas9タンパク質のDNA切断活性を全く制御できないため,ゲノム編集にさまざまな制約が課せられていた。このため,Cas9の活性を制御できる技術の開発が強く求められていた。

研究グループはCas9の制御を実現するために,まずCas9タンパク質を二分割してそのDNA切断活性を不活性化した。活性を失ったCas9のN末端側断片(N-Cas9)とC末端側断片(C-Cas9)に研究グループが最近開発した小さな光スイッチタンパク質(pMag,nMag)を連結した。pMagとnMagは青色の光に応答して互いに結合するタンパク質。

青色の光を照射すると,pMagとnMag の結合に伴って,N-Cas9とC-Cas9も互いに近接し結合する。これにより,N-Cas9とC-Cas9は本来のCas9タンパク質のようにDNA切断活性を回復し,標的の塩基配列を切断できるようになる(スイッチオン)。なお,光照射を止めるとpMagとnMagは結合力を失うため,N-Cas9とC-Cas9も離れ離れになり,DNA切断活性は消失する(スイッチオフ)。

研究グループはこのツールを用いて,狙ったゲノム遺伝子の塩基配列を改変し,その機能を破壊できることを示した。また,狙ったゲノム遺伝子の塩基配列を別の塩基配列に置換できることも示した。さらに,光照射のパターンを制御することにより,ゲノム編集を空間的に制御できることも実証した。

さらに,このツールに変異を加えてDNA切断活性を欠失させることにより,ゲノム上の狙った遺伝子に結合して当該遺伝子の発現を光で可逆的に抑制する技術も開発した。

研究グループでは,このツール用いればDNA切断活性の持続時間を非常に短く制御できるため,目的としない塩基配列のDNA切断という問題を低減できると期待している。

また,既存の技術ではゲノム編集を空間的に制御することは不可能だったが,例えば脳における神経細胞のように,組織の中で狙った細胞単位でのゲノム編集が実現すると期待されるとしている。

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