福井大ら,2光子レーザ顕微鏡で視神経軸索内の動画観察に成功

福井大学, 自然科学研究機構 生理学研究所,熊本大学,名古屋大学,岡山大学,米カリフォルニア大学サンディエゴ校らの研究グループは,解剖を加えずに自然な状態で,哺乳動物の視神経軸索内のミトコンドリアの輸送をライブイメージで観察することに,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

緑内障は,眼圧のせいで視神経が押しつぶされて,不可逆に失明してしまう日本人の失明原因1位の難治性の眼疾患。眼圧によって視神経が死ぬメカニズムは,眼圧が視神経の軸索内の輸送を止めてしまうためだと考えられていたが,実際に軸索流が止まるのかを動画でみた報告はなかった。軸索流が止まることを観察できれば,緑内障で視神経が死ぬ前に治療を開始することができる。

また,視神経と脳と脊髄は中枢神経と呼ばれ,脊椎動物ではその大部分が骨で囲まれていて,解剖せずに軸索流を見ることはできなかった。眼は,唯一,骨で囲まれていない中枢神経なので,解剖を加えずに自然な状態で,中枢神経細胞の軸索流を観察できると研究グループは考えた。

研究グループは,軸索内を輸送される最も大きい物体として,ミトコンドリアを観察対象とした。また,ミトコンドリアはATPという神経細胞が活動して生きていく上で大事なエネルギーを作る細胞内器官で,緑内障では視神経が死ぬ前にミトコンドリアが障害されることが報告されている。

ミトコンドリアを蛍光標識したマウスを用いて,軸索内を輸送されるミトコンドリアを2光子レーザ顕微鏡で観察し,視神経軸索1本1本の中を活発に輸送されるミトコンドリアの動画の撮影に成功した。

その結果,眼圧の高いマウスでは,ミトコンドリアの輸送が止まり,その後,視神経が死ぬことがわかった。さらに,軸索の中で,ミトコンドリアが無くなっている領域が広がっていくことや,ミトコンドリア自体の長さが短くなっていることがわかった。

高齢のマウス(ヒトでは70才台)でも,中高年のマウス(40才台)でも同じ現象が始まっていることがわかった。これは,加齢と共に緑内障にかかりやすいことや,高齢者の緑内障ほど眼圧で視神経が死にやすいという臨床研究のデータと一致する。ただし,緑内障ではミトコンドリアの軸索流が止まるが,加齢では止まらないというところが,老化現象と緑内障では明確に異なる。

軸索流をみることで,今まさに視神経が弱ってきているのかを判定することができ,今の眼圧が視神経にとって適切なのかまだ高いのかを見極め,治療を変更することができる。研究グループは今後,さらに大型の動物で検証を重ねて,臨床応用に進めていく。

また,加齢と共に軸索内にミトコンドリアのない領域が増えたり,ミトコンドリアが小さくなったりする現象は,老化による神経細胞の活動性の低下や中枢神経の萎縮と関連していると考えられている。視神経のミトコンドリアを見ることで,脳年齢を判定する健診技術にも役立てたいとしている。

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