統計数理研究所(統数研)とパナソニックは,材料の組成からその結晶構造を高速かつ高精度に予測する機械学習アルゴリズムShotgunCSPを開発し,結晶構造予測のベンチマークにおいて世界最高性能を達成した(ニュースリリース)。
結晶構造予測(CSP:crystal structure prediction)は,特定の条件下で材料や化合物がどのような結晶構造をとるかを予測する問題。具体的には,第一原理計算に基づくエネルギー評価を繰り返し実行し,エネルギー最小化問題を解いて安定な原子配置を求める。
この問題は20世紀初頭から物質科学の基本問題として研究されてきた。近年は計算機技術や生成AIの進展と相まって新たな技術開発が進行している。しかしながら,大規模な結晶系や複雑な分子系では広大な網羅的に相空間を探索するための計算資源が膨大になり,依然として物質科学の未解決問題となっている。
研究グループは,機械学習アルゴリズムを導入することで安定な結晶構造が持つ対称性のパターンを高精度で予測できることを発見した。さらに,この予測器を用いて探索空間を大幅に絞り込むことで,従来必要とされてきた第一原理計算の繰り返し実行を省略し,非常に単純なアプローチで大規模で複雑な系においても安定構造を高精度かつ効率的に予測できること実証した。
CSPアルゴリズムは,新材料開発や科学的発見を加速する基盤技術。物質の安定構造を特定できれば,高温超伝導,電池材料,触媒,熱電材料,医薬品分子,さらには高温高圧など極限環境下における物質の探索が飛躍的に進展する。
研究グループは,従来の発想とは一線を画し,機械学習で安定相の結晶対称性を絞り込むという新たな切り口を発見することで,CSPアルゴリズムの予測性能を大幅に向上させることに成功した。さらに,ShotgunCSPはそのシンプルなアルゴリズム設計により並列計算との親和性が高く,探索計算を大規模化することでさらなる性能向上が期待されるとしている。