山形大学の研究グループは,緻密なSiN(窒化ケイ素)を形成し,溶液プロセスで得られる水蒸気バリア膜の世界最高性能を更新した(ニュースリリース)。
有機EL(OLED)やペロブスカイト太陽電池(PSC),有機薄膜太陽電池(OPV)は,大気中の水蒸気で敏感に劣化する。そこでフレキシブルOLED ディスプレー(スマートフォン等)では,樹脂フィルム上に緻密な無機膜(SiN:窒化ケイ素)を真空プロセスで製膜している。しかしこの方法は生産性が低く高コストであり,溶液プロセスによる無機バリア膜形成が望まれている。
研究グループは,真空紫外光(VUV光:波長=172nm)を照射することで,溶液プロセスで形成する水蒸気バリア膜の世界最高性能を記録しているが,VUV光の照射時間が長く,OLEDに必要なバリア性能には不十分,光反応機構の詳細が不明といった課題があった。
そこで今回,ランプ強度を103~309mW/cm2と変化させ反応機構の解明を行なった結果,高強度のVUV 光照射条件下では,PHPS膜の光緻密化反応が加速的に進行することで,光照射時間の大幅な短時間化と,高い水蒸気バリア性能を同時に達成できる可能性があることがわかった。
そこで,ランプ強度103,309mW/cm2で膜質と水蒸気バリア性能評価を行なったところ,ランプ強度はどちらでも,積算光量が増えるごとに屈折率は増大した。ここで屈折率の増大は大きな組成変化が無いことから密度上昇に基づくと考えられるという。
特にランプ強度103mW/cm2にて12J/cm2を照射した屈折率よりも,ランプ強度309mW/cm2にて3J/cm2を照射した屈折率のほうが高く,光強度が高いランプを用いる事で積算光量は1/4で同等以上の光緻密化が進行することがわかった。
そこで,バリア層/平坦化層を3ユニット(計6層)形成したバリア構造にて,水蒸気透過度(WVTR)の測定を行なった。ランプ強度309mW/cm2を用い,積算光量6J/cm2を照射したバリア膜で,最小のWVTR=1.8×10-5g/m2/dayを得た。これは,溶液プロセスで形成する水蒸気バリア構造の世界最高値を2.8倍更新する性能。
積算光量3J/cm2の光照射時間は10秒と約1/15の光照射時間の短縮を達成した。これらは高強度ランプを用いる事により,光緻密化が加速的に進行し薄膜の密度が向上したことが推測されるという。
研究グループは,この技術が,有機ELや次世代太陽電池だけでなく,エレクトロニクス分野や包装分野などのバリア技術が必要な産業に広く寄与できるよう,さらに研究を推進するとしている。