東京科学大ら,ペロブスカイトに負熱膨張材料の知見

東京科学大学,国立台湾大学,英エジンバラ大学は,Bi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3という電荷分布を持つペロブスカイト型酸化物ニッケル酸ビスマス(BiNiO3)を低温で加圧すると,電荷非晶質(電荷グラス。Biイオンの並び方に秩序がなくなり,ランダムに存在する)状態になる,特異な温度圧力変化を示すことを明らかにした(ニュースリリース)。

ペロブスカイト酸化物は強誘電性や圧電性などの多彩な機能を持つことが注目されている。その一種であるBiNiO3は,高温・高圧環境で相転移し,負熱膨張をすることが知られており,低温・高圧環境でも新たな電子相が出現すると予想されていたが,これまで詳しく研究されていなかった。

今回研究グループは,BiNiO3の高圧・低温環境での振る舞いを詳しく調べるために,大型放射光施設SPring-8のビームラインBL22XUでの圧力下放射光X線粉末回折実験と,BL39XUでの放射光X線吸収分光に加え,英ラザフォードアップルトン研究所での圧力下中性子回折実験によって,BiNiO3を250K以下の低温で圧縮した場合の原子の配列の変化を調べた。

その結果,圧縮後のBiNiO3では,Bi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3の電荷分布を保ったまま,Bi3+とBi5+の秩序配列が消失し,3価のビスマスと5価のビスマスがランダムに存在する「電荷グラス」状態になることが分かった。さらに,この電荷グラス相を圧力を保ったまま昇温すると,Bi3+Ni3+O3相への電荷移動転移が起こり,体積が収縮する(負熱膨張する)ことを確認した。

同様の圧力誘起非晶質化はシリコンやSiO2,GeO2でも観測されている。研究グループは,そうした物質で見られる,原子配列が不規則になる非晶質化と,今回BiNiO3で発見した電荷配列が不規則化する電荷非晶質化にはどのような相関があるのか検討していくという。

従来知られているBiNiO3のBi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3結晶相からBi3+Ni3+O3相への電荷移動転移とそれに伴う負熱膨張は,BiNi1-xFexO3という負熱膨張材料として活かされている。今回電荷グラス相からBi3+Ni3+O3相への転移でも負熱膨張が起こることが見つかったことから,このメカニズムを用いた新しい負熱膨張材料の開発が期待されるとしている。

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