東北大学と名古屋大学は,典型的な金属磁性体であるコバルトに白金を混合した合金ナノ薄膜の円偏光によって発生する光磁気トルクを観測したところ,白金を混合しないコバルトナノ薄膜に比較して約5倍大きな光磁気トルクが発生することを見出した(ニュースリリース)。
膨大なデジタル情報を高速かつ効率よく処理する半導体電子デバイス技術や,それら膨大な情報を大容量かつ高速に転送するための光通信技術は,日増しに増大するデータに囲まれた我々の社会を持続的に発展させるために必須の技術。
そのさらなる発展のため,昨今電子技術と光技術を高度に融合した,いわゆる光電融合技術の開発に多くの機関や企業が取り組んでいる。光を用いたナノ磁性体の制御はそのような次世代融合技術の基盤技術の一つとして期待され,国内外の機関でその基礎研究が進められると同時に,光スピンメモリやストレージ等の新しいデバイスアプリケーションも検討され始めている。
研究グループでは,これまで,ナノメートルの厚みを有する金属磁性体と重金属を積層したナノ薄膜における光磁気トルクの基礎的な研究を進めてきた。そのような積層ナノ薄膜に円偏光を照射すると重金属内に電子スピン角運動量が発生し,それにより光磁気トルクも発生する。
他方,一層からなる金属磁性体ナノ薄膜では,逆ファラデー効果に伴う光磁気トルクが発生することが知られていたが,そのミクロな物理の理解が進んでいなかった。デバイス応用を検討するうえでは,金属磁性体ナノ薄膜における光磁気トルクをより深く理解する必要がある。
今回,研究グループでは,典型的な金属磁性体であるコバルトに重元素である白金を混合した合金に着目し,その光磁気トルクについて研究した。白金を様々な濃度で混合したコバルト合金ナノ薄膜を作製し研究を進めた結果,白金を混合していないナノ薄膜に比較し約5倍大きな光磁気トルクが発生することが明らかになった。
また,白金元素に特有の相対論的量子力学効果であるスピン軌道相互作用が,円偏光によって発生する電子軌道角運動量に起因した光磁気トルクを増強することが明らかになった。
研究グループは,独自の発見であるこの成果は,金属磁性体における電子軌道角運動量や光磁気トルクの物理の理解に新しい知見を与えるとともに,光を用いて情報を書き込むスピンメモリやストレージ技術の開発に寄与するものだとしている。