東北大学の研究グループは,マルチフェロイクスを室温以下だった既存の動作温度に比べてきわめて高い温度(約160℃)で動作させることに成功した(ニュースリリース)。
近年のマルチフェロイクスの研究は,2003年に東京大学の研究グループが磁気秩序によって強誘電性が起こることを発見したことによって盛んになった。この場合強誘電性がもともと磁性誘起のものであるため,大きな電気と磁気の結合があり,巨大な電気磁気効果や光の一方向性など多彩な機能が発現した。
しかし,その磁性誘起の性質から,動作温度は磁気転移温度によって制限されており,これまでのマルチフェロイクスの動作はせいぜい室温付近までだった。
一方で,強誘電性が磁性とは無関係に結晶格子の変形により電気双極子が現れることで起こり,かつ磁性を有する物質も存在していた。しかし,その場合,磁気的な性質と強誘電性の起源が別で分離しているため,マルチフェロイクスで観測されていたような,磁場によって電気分極が反転するといった大きな電気磁気効果は観測することが出来ていなかった。
研究グループは,モリブデン酸テルビウムTb2(MoO4)3が,結晶格子の変形によって強誘電性を発現することに着目した。この物質は,強誘電体であるとともに強弾性体であり,歪みと電気分極が強く結合した物質。またテルビウム(Tb)イオンは磁気モーメントを持つ。Tbイオンの持つ磁気モーメントは大きな磁気弾性結合,つまり磁気モーメントの方向に依存して歪む効果があることが,過去のTbを含む化合物の研究で知られていた。
これらのことから,この物質では磁気モーメントと強誘電性の起源が別の独立なものになっているにもかかわらず,歪みを介して結合し,マルチフェロイクスとして動作することが期待された。
実際,約160℃という高温で,磁場によって磁気モーメントを90°回転させることにより,電気分極の反転に成功した。これによって,マルチフェロイクスが高温でも動作することが実証された。
マルチフェロイクスの高温における動作が実現したことにより,光の一方向性や省電力の磁性制御などマルチフェロイクスの機能の常温における安定動作が保証されたため,研究グループは今後,高機能な光デバイスや電場駆動のスピントロニクスデバイスなどへの応用研究が加速されると期待されるとしている。