京都大学の研究グループは,室温で強誘電性を示す二次元ハライドペロブスカイトに電場を印加すると,顕著なカイラル光学効果が生じ,またそれが電場の大きさや向きに応じて連続的・可逆的に制御可能であることを発見した(ニュースリリース)。
二次元ハライドペロブスカイトL2An-1PbnX3n+1は,次世代太陽電池応用が期待されるなど優れた光電特性を示すことに加え,高い構造制御性に由来した多彩な電子・光機能が発現する新たな二次元半導体材料として大きな注目を集めている。
近年,有機カチオンの種類を工夫することにより,室温で強誘電性やカイラリティが発現することや,さらにはこの二つの特性を併せ持つ物質の作製が報告された。
このようなユニークな電子・光物性の解明やデバイス応用に向けては,外場,特に電場による物性制御が重要だが,従来の研究では,カイラルな結晶構造を電場により変化させることが困難であるために,カイラリティに起因した物性の電気的な制御は実現していなかったた。
今回研究グループは,室温で二軸強誘電性を示す(BA)2(EA)2Pb3I10単結晶(BA=CH3(CH2)3NH3+,EA=CH3CH2NH3+)を合成し,スコッチテープ法により櫛形電極上に剥離・転写した試料に対して電場を印加した。
結晶対称性や強誘電分極の振る舞いを詳細に調べるため,波長1253nmの基本波レーザー光から発生した波長627nmの第二高調波発生(SHG)を基本波やSHGの偏光を分解しながら測定することができる偏光分解SHGイメージング測定系を構築した。
結晶のカイラリティは,右回りおよび左回り円偏光の基本波から発生するSHG強度の規格化した差であるSHG円二色性(SHG-CD)を測定することにより,感度よく評価することができる。そこで,電場の大きさや向きを連続的に変えながらSHG-CDを測定した結果,カイラルでない結晶構造を持つにも関わらず電場の印加により顕著なSHG-CDが生じ,さらに連続的・可逆的なSHG-CD制御が可能であることを発見した。
また,SHG強度の偏光依存性から,二軸強誘電性を反映した二つの直交する強誘電分極を持つドメインが混在するマルチドメイン構造が電場により誘起され,この構造に由来したカイラリティの発現が,観測されたSHG-CDの起源であることを解明した。
研究グループは,この研究結果は,電場によるカイラリティ制御の新たなアプローチを実証しただけでなく,新奇なナノ光機能の創出やデバイス開発に向けて強誘電二次元ハライドペロブスカイトが有望な材料であることを示したとしている。