筑波大学,京都大学,広島大学は,ウニ幼生において,腸の入口である幽門と出口である肛門が,光に応答して開口する現象を発見した(ニュースリリース)。
人間を含む左右相称動物の多くは,口から肛門まで貫通する消化管を持ち,食べたものを消化・吸収し,不要なものを排泄する。このような貫通型の消化管は,左右相称動物の進化で獲得されたと推測され,これが機能するためには,入口(口)と出口(肛門)を適切に制御する仕組みが必要となっている。
今回,バフンウニ幼生に光を照射した際,偶然観察された光応答による排泄現象をきっかけに,光照射約2分後に腸の出口である肛門が開口するという現象を新たに発見した。
この現象についてさらに調べたところ,腸の出口である肛門は,以前に報告した幽門の光応答の経路とは異なり,ウニ幼生の脳近傍および腕先端に存在する光受容タンパク質Opsin2が,光を受容すると,神経伝達物質であるドーパミンおよびアセチルコリンの働きを抑制し,それによって開口するというメカニズムが明らかになった。
さらに,幽門と肛門はどちらも光に応答して開口するものの,これらが同時に開口することは極めて稀であることが分かった。つまり,幽門と肛門の開閉は独立して行なわれているわけではなく,相互に抑制し合っていることが示唆された。
解析の結果,幽門を開口させるために必要な脳内のセロトニン神経が肛門の開口を抑制する働きを持つ一方,肛門を閉じる働きをしているドーパミンが幽門の開口を誘導しており,肛門の開閉の経路が相互作用する脳腸相関があることが明らかになった。
また,Opsinの吸収波長による反応の違いについて観察したところ,幽門ではOpsin3.2が青色光に応答し,肛門ではOpsin2が青色光からより長波長の光に応答した。すなわち,短波長の光により幽門が開き,長波長の光により肛門が開くという,光波長に依存した制御メカニズムが見いだされた。
これらの結果から,左右相称動物が貫通型の消化管を進化的に獲得する際に,光を介した制御メカニズムが消化管を通じて食物を効率的に保持し,必要な時に排泄するための基本的な仕組みを果たしていた可能性が提唱された。
研究グループは,今後,消化管の入口と出口の開閉が脳や神経系により制御されるメカニズムを解明することにより,消化吸収が進化の過程でどのように脳の発達や神経系の進化と関係してきたかについて,新たな視点を提供するとしている。