京都大学の研究グループは,ハロゲン化スズペロブスカイト太陽電池の電子輸送材料として用いることができる開口フラーレン化合物を開発した(ニュースリリース)。
スズ系ペロブスカイト太陽電池の課題のひとつに,得られる開放電圧が低いことが挙げられる。高い開放電圧を得るためには,より浅いLUMO準位をもつ電子輸送材料の開発が強く望まれていた。
C60よりも浅いLUMO準位をもつフラーレン誘導体としては,フェニル-C61-酪酸メチルエステル(PCBM)とインデン-C60二付加体(ICBA)が一般的だが,一付加体であるPCBMではLUMO準位が十分には浅くなく,一方,二付加体であるICBAでは,合成においてさまざまな異性体が生じ,それらを分離するのが困難だった。
研究グループでは,フラーレンに化学修飾により穴をあけ,小分子を導入して再び閉じる,フラーレンの分子手術法を開発し,様々な分子を内包させたフラーレンを合成してきた。今回,その合成中間体である開口フラーレンの1種であるOCに注目し,この化合物をスズ系ペロブスカイト太陽電池の電子輸送材料とすることを着想した。
合成した開口フラーレンOCの薄膜を作製し,電気化学測定によりLUMO準位を見積もったところ,この化合物は,ICBA(–3.95eV)よりは若干深いがPCBM(–4.14eV)より浅い–3.98eVにLUMO準位をもつことがわかった。
スズ系ペロブスカイト材料の伝導帯準位(–3.66eV)との差は0.32eVと,PCBMの場合(0.48eV)よりも小さくなり,太陽電池の開放電圧の損失が小さくなることが期待された。
そこで,この化合物を電子輸送材料に用いてスズ系ペロブスカイト太陽電池を作製したところ,PCBMを用いた場合(0.57V)よりも高い0.72Vの開放電圧と,9.6%の光電変換効率が得られた。
さらに,開口フラーレンOCは,PCBMやICBAよりも優れた熱安定性を示すことがわかった。フラーレン誘導体の熱重量測定を行なったところ,ICBAでは約140°C,PCBMでは約370°Cから熱分解による重量減少が見られたのに対し,OCは約450°Cまで安定で,500°Cでも元の重量の93%(–7%)を保持できた。
そこで,真空蒸着法によるOCの成膜を試みたところ,若干の化合物の分解は見られたものの,蒸着膜を用いた太陽電池素子でも7.6%の光電変換効率が得ることができ,開口フラーレン化合物がスズペロブスカイト太陽電池の電子輸送材料として機能することを実証した。研究グループは,今後,独自の電子輸送材料の開発研究を展開していくとしている。