名大,蒸着可能なフラーレン誘導体で高耐久PSC作製

名古屋大学の研究グループは,真空蒸着プロセスに使用でき,形態的に安定な蒸着膜を与えるフラーレン(C60)の誘導体を開発した。これを電子輸送層に用い,耐久性が高いペロブスカイト太陽電池(PSC)を作製した(ニュースリリース)。

C60はその発見以来,特異なサッカーボール型の形状とそれに由来する優れた電子機能が研究者の興味を引きつけてきた。実際に,C60は電子を流すn型有機半導体として,有機エレクトロニクス分野において重要。

その電子機能を向上させ,集合形態を最適化するために,フラーレンに有機分子を取り付けたフラーレン誘導体が設計・合成されている。

フラーレン誘導体のような有機半導体を有機電子デバイスに用いるためには,それらの有機材料を薄膜化する必要がある。研究グループは今回,良質な薄膜を与える真空蒸着に用いることができて,アモルファスな蒸着膜を与えるtBu-FIDOというフラーレン誘導体を開発した。

研究では形態的な安定性を示すtBu-FIDOを電子輸送層に用いて,ペロブスカイト太陽電池を作製した。比較例として,C60を真空蒸着して形成した電子輸送層をもつペロブスカイト太陽電池も作製した。C60を電子輸送層とした標準素子では,初期のエネルギー変換効率 20.45%を示したが,層内でのC60の結晶化により,16日間の保管後,変換効率は 17.71%に低下した。

それに対し,tBu-FIDOを電子輸送層としたペロブスカイト太陽電池では,初期変換効率が19.30%だったものの,16日間の保管後,変換効率は低下せず,22.11%に上昇した。

それぞれのペロブスカイト太陽電池において,最高のエネルギー変換効率を示した素子の電流-電圧曲線を比較すると,開放端電圧(VOC),短絡電流密度(JSC),フィルファクタ(FF)全てにおいて,tBu-FIDOを用いた素子でより高い値を示す傾向がみられた。

研究グループは,太陽電池の性能が向上することはもちろん,16日間性能の低下がみられなかった点が特に重要だとしている。ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上に寄与する材料は,ペロブスカイト太陽電池の実用化に寄与することができる。

今回,ペロブスカイト太陽電池の実用化・市場化において最大の問題であった,耐久性の向上に寄与する材料を創出することに成功した。研究グループは,ペロブスカイト太陽電池だけでなく,有機光ダイオードのn型有機半導体としても利用できる成果だとしている。

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