東大ら,X線望遠鏡用高精度筒形ミラーの作製法確立

東京大学,名古屋大学,夏目光学は,1μmを上回る高い精度で,X線望遠鏡用の高精度筒形ミラーを作製する技術を確立した(ニュースリリース)。

X線は一般的なレンズやミラーで集めることはできないため,宇宙X線観測用の望遠鏡では,ウォルターミラーと呼ばれる特殊な筒形ミラーが用いられる。ウォルターミラーは,円筒形の内面にナノメートルオーダでの鏡面加工を必要とするため,その作製は困難だった。

ミラーは電鋳法で作製する。新しい作製技術では,まず,マンドレルと呼ばれるガラス製の「型」を作製する。次に,電気めっきの原理で,マンドレルの表面を覆うように厚さ0.5~2 mmの「殻」を作る。

この殻をマンドレルから引き抜くと,マンドレルの表面形状が殻の内側にコピーされ,円筒形のウォルターミラーが完成する。マンドレルは繰り返し使用することができ,多くのミラーを効率よく作ることができる。

殻を形成する際,副反応によりその表面に気泡が生じ,殻に穴欠陥を生じさせてミラーの形状を歪めてしまう。ミラーが大きいほど穴欠陥の防止が難しくなるため,これまでの研究では,小指サイズの小さなミラーしか作ることができなかった。

研究では,真空を利用した新しい気泡除去手法を用いることで,大きなミラーでも欠陥なく高精度に作ることが可能になった。

今回,太陽観測ロケット実験FOXSI-4のX線望遠鏡に用いられる直径60mm,長さ200mmのウォルターミラーを作製した。ミラーの精度の指標の一つである二乗平均平方根(root-mean-square:RMS)形状誤差を求めたところ,0.3μmという高い精度を達成していた。

望遠鏡に搭載した場合の性能をシミュレーションしたところ,約12秒角(約0.003度)の解像度を期待できることがわかった。これは、欧米のグループの主導で過去に開発されたX線望遠鏡の性能に比肩するものだという。さらに,同一のマンドレルから三つのミラーを作製することにも成功した。

ウォルターミラーの精度向上は,X線望遠鏡の解像度の向上に直結する。すでに開発したミラーのFOXSI-4への搭載が決定しており,2024年に実観測が行なわれる予定。日本発のX線望遠鏡により,太陽フレアの謎が解明されることが期待される。

さらに,高効率な作製手法であるため,X線望遠鏡開発の低コスト化や,新しい観測技術のアイデアの実現に貢献する。次世代のX線望遠鏡ではさらに高い性能が求められるため,研究グループは,この高精度かつ高効率なミラー製造技術が今後のX線天文学の発展にとってますます重要になるとしている。

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