日本電信電話(NTT)は,太陽光エネルギーを利用する半導体光触媒と二酸化炭素(CO2)を還元する金属触媒を電極として組み合わせた人工光合成デバイスを作製し,世界最長の350時間連続炭素固定を実現した(ニュースリリース)。
人工光合成はこれまでに世界中で様々な研究が進められており,特に高いCO2変換効率を実現できる触媒に関する検討が盛んに行なわれている。一方で,連続したCO2変換の試験時間は数時間から数十時間レベルに留まっており,長時間化に向けた劣化抑制の技術確立が課題となっていた。
同社では,長時間連続して気相中のCO2をより効率的に変換可能な人工光合成の実現をめざし,光をエネルギーとして利用するための長寿命な半導体光触媒電極と,気相のCO2を高効率に変換するために電解質膜と一体化した繊維状の金属触媒電極により構成した人工光合成デバイスを設計した。
半導体光触媒として用いている窒化ガリウム(GaN)系電極は,GaN表面と水溶液の界面で生じる劣化反応の抑制が課題だった。そこで,GaN表面の凹凸をより滑らかにし,光を十分に透過する厚さ2nmの均一な酸化ニッケル(NiO)薄膜を保護層として形成することでGaNと水溶液の接触を防ぎ,電極の劣化を大幅に抑制することに成功した。
また,従来の水溶液中に溶存しているCO2を変換する金属電極は板状の構造が主流だが,今回,気相のCO2を変換するために,CO2拡散性の高い繊維状金属とCO2変換反応に必要なプロトン(H+)を反応場に供給する役割を持つ電解質膜を一体化した電極構造を考案した。
これにより水溶液中に電極を浸漬させることなくCO2変換反応に必要なプロトン(H+)を反応場に供給できるようになり,気相のCO2を直接変換することを可能にした。これらの電極構造の工夫により,従来に比べ10倍以上のCO2変換効率を実現した。
この人工光合成デバイスに疑似太陽光を照射し,気相のCO2変換試験を行なった結果,350時間連続してCO2がCOやHCOOHに変換されたことを確認した。
生成したCOやHCOOHから算出した単位面積当たりの累積炭素固定量は420g/m2に達し,半導体光触媒を用いた人工光合成において世界最長の350時間連続動作を実現した。この検証による炭素固定量は,樹木(スギ)の木1本が1m2当たり約1年間で固定するCO2を上回る量に相当するという。
研究グループは,今後,より高性能な人工光合成反応を実現するために,電極での反応の更なる高効率化,電極の長寿命化およびこれらの両立をめざすとしている。