東京農工大学は,ルビジウム(Rb)原子が吸着した強磁性体Fe3O4表面に紫外光を照射することで脱離したRb原子に対し,独自に開発した手法を用いてスピン移行量の測定に成功し,脱離メカニズムの一端を解明した(ニュースリリース)。
固体表面では,気体原子・分子が表面に結合する現象(吸着)やその逆過程である脱離などの表面特有の現象が起きる。これらの現象は触媒やガスセンサーなどの技術に応用されるが,そのメカニズムには,吸着する物質(吸着子)と固体表面との間の電子の移動が深く関わっている。
電子は電荷とスピンという二つの性質を持ち,吸着子と固体との間で電子が移動すると電荷の移動とスピンの移行も同時に起きる。電荷の移動を検出する方法は多くあるが,スピンの移行の検出は難しい。
スピン移行は,コバルト(Co)へのアルカリ金属原子吸着による触媒促進効果など,産業上重要な現象に関係しており,その検出手法が課題となっていた。
研究グループは,表面に吸着したRb原子を光誘起脱離させ,光の吸収を用いて脱離した原子のスピン状態を測定することで,脱離に伴う表面-吸着子間のスピン移行を検出するという独自の手法を開発した。
この手法では,試料に紫外光を照射して吸着原子を脱離させ,脱離したRb原子に,Rb原子が共鳴する波長の光(プローブ光)を照射し,Rb原子によるプローブ光の吸収強度をフォトダイオードで測定することで,脱離原子を検出する。
また,プローブ光には円偏光を用い,その向きを切り替えながらプローブ光吸収強度を測ることで,脱離したRb原子のスピン状態を測定することができる。紫外光源には高強度パルスレーザーを用いることで,脱離原子密度を高め,微小なスピン移行を検出することを可能にした。
この研究では,この手法をRb原子が吸着したFe3O4表面に適用することで,その有効性を実証した。その結果,Fe3O4からのRbの脱離は,ある一定の被覆率以下の領域では起きず,また,脱離したRbの並進速度は被覆率に依存することが明らかになった。また,光誘起脱離に伴うFe3O4とRbの間のスピン移行の大きさは,検出感度以下であることも明らかになった。
これらの結果は,Rbの光誘起脱離は,Rbが表面に2層以上吸着している多層吸着領域でのみ起きることを示している。また,開発したスピン移行検出手法が,固体表面と吸着子との間の相互作用の解明に役立つことも意味するという。
研究グループは,この研究成果により, Coへのアルカリ金属原子吸着による触媒促進効果などのスピン移行が関係する現象の解明が進み,高効率触媒の開発などに貢献するとしている。