金沢大学と埼玉大学は,リザバー計算と呼ばれる小脳を模したニューラルネットワークを実装した光集積回路などに基づいて,サブナノ秒の時間スケールで起こる超高速現象をリアルタイムに認識・検出できる新しいマシンビジョン技術の原理実証に成功した(ニュースリリース)。
近年の人工知能(AI)・機械学習の急速な進展により,コンピューティングの需要が爆発的に増加している。それに対処する新しいコンピューティング技術として,光を利用したニューラルネットワーク(NN)処理および光回路技術が注目され,世界的に開発が進められている。
しかし,光の持つ物理的な性質から,既存の電子型NN回路に匹敵する大規模なNN回路の開発は難しく,画像のような膨大な視覚情報を高速に処理することは困難と考えられてきた。
また,これまで開発されてきた光NN集積回路の多くは,カメラのようなイメージセンサで取得した画像を処理することを前提にしていたため,通常のカメラでは捉えられない高速な現象の認識や突発的な現象に対する瞬時の情報処理による判断・認識も難しいと考えられてきた。
研究グループは,観測したい物体の視覚情報を,一旦,音声データのように時間的に変動する1次元の信号(時系列信号)に変換することで,1つのチャンネルだけで光NN回路に視覚情報を入力させて処理させる技術を開発した。
また,高速処理を得意とする光通信技術をベースにして,光スペックルパターンと呼ばれるランダムパターンを生成する新しい空間光変調方法を開発した。これにより,従来の1000倍に近い25GHzでランダムパターンの高速生成が可能になった。
視覚情報の取得からAIでの判断プロセスまでを全て光のまま実行できるため,人間では決して捉えることのできない10億分の1秒以下(サブナノ秒)のタイムスケールで起こる現象をリアルタイムに認識したり,そこで発生する未知の異常を検出したり,さらにはそのような高速現象の録画・再生が可能になる。
具体的には,外部ディスプレーに映した手書き文字のイメージを1%程度まで圧縮し,1ns以下の時間でイメージのデータを取得・処理することが可能。また,0.4nsでの超低遅延で異常検知可能なことが示されたという。
研究グループは,今後さらに開発を進めることで,これまでにないオンチップ型の超高速イメージプロセッサへの発展が可能となり,基礎科学分野だけでなく,光通信分野や自動運転の事故防止などリアルタイムでの認識・判断・制御が必要となるさまざまな場面での活躍が期待できるとしている。