東京理科大学,千葉大学,東北大学,筑波大学は,ベクトル光渦の軌道角運動量に起因する偏光空間構造をスピンの空間構造として半導体量子井戸中に印刷することに成功した(ニュースリリース)。
半導体中に働くスピン軌道相互作用の有効磁場によって電子スピンが空間的にらせん構造を描いてストライプ状に定在する電子スピン波の空間構造は新たな情報担体として期待されている。
光の偏光と固体中のスピン状態は変換可能であり,この電子スピン波の空間構造の生成には光が用いられてきた。しかしながら均一偏光分布を持った単一光では,その空間構造の生成に時間経過を必要とした。
そこで研究グループは,ベクトル光渦とよばれる偏光の空間周期構造を利用することで,直接的にスピンの空間周期構造を生成する方法を考案した。
ベクトル光渦の軌道角運動量に起因する偏光空間構造をスピンの空間構造として半導体量子井戸中に直接生成することに成功し,また,半導体量子井戸中で電子スピンに作用するスピン軌道相互作用と組み合わせることで,位相の反転した2つの電子スピン波を同時に生成できることを示した。
光の偏光と固体中のスピン状態の変換を従来の円偏光のガウシアンビームを用いて行なうと,一方向に揃ったスピン状態が光励起される。一方で,ラゲールガウシアンビームの一種であるベクトル光渦は軌道角運動量に起因して方位角依存の偏光周期構造を持つ。
研究グループはボルテックス1/2波長板と1/4波長板を用いてガウシアンビームからベクトル光渦を生成し,それを用いて偏光とスピンの変換を行なった。その結果,円周上にスピン状態が2周期繰り返されるスピンの空間構造が観測された。
このことはベクトル光渦の偏光周期構造がスピン分布に移されたことを意味する。空間周期構造のひねりの数はベクトル光渦のトポロジカル数で決まるため,実際にベクトルビームのトポロジカル数を1つ増やすことで円周上でスピン状態が4周期繰り返されるスピンの空間構造を生成することもできる。
光渦のトポロジカル数は任意の整数を取るため,トポロジカル数を増やすことによってスピン情報を高密度化することが可能になると期待される。
さらに半導体中において電子スピンに作用するスピン軌道相互作用の有効磁場を利用することで,横方向にはスピン状態が繰り返され,縦方向にはスピン状態が反転した特徴的なスピンの空間構造が生成されることがわかった。
ベクトル光渦によるスピン空間構造の直接生成と固体中の有効磁場を組み合わせることで,様々なスピン空間構造が固体中で生成できるようになると考えられ,研究グループは,高次量子メディア変換やスピンテクスチャを利用した情報大容量化の要素技術につながるとしている。