立命館大学,京都大学,静岡理工科大学は,天然の酸化還元補酵素をモデルとした配位子を有するルテニウム錯体から初めて有機ヒドリドが光照射によって二酸化炭素を触媒的に還元することを確認した(ニュースリリース)。
二酸化炭素(CO2)濃度の削減と再生可能エネルギーの創製のために,研究グループは,生体内で太陽光を利用してCO2を還元する光合成の模倣に挑戦した。
生体内での還元反応では,補酵素のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)上のニコチンアミド部位が,外部からのエネルギーによって一つのプロトンと二電子を受け取り,還元型NADHとなる。このNADHが基質にH−を与えて還元を行ない,自身は酸化型NAD+となって再生される。
このようにNAD+/NADH酸化還元対は生体内で数多くの有機物の酸化還元反応に関与し,副生成物を伴うことなく高効率で物質変換を行なっている。研究では,天然の酸化還元反応の補酵素NAD+/NADHをモデルとしたルテニウム錯体を用いて,触媒的二酸化炭素還元反応を可視光のエネルギーで行なうことにした。
これまでに,NAD+/NADHをモデルとした配位子を持つ酸化型ルテニウム錯体が,電子源とプロトン存在下で分子間不均一化反応を経て還元型ルテニウム錯体となり,強い塩基(安息香酸アニオン)存在下でCO2をギ酸へと還元することを報告してきた。しかし,この反応系では酸化型ルテニウム錯体から還元型ルテニウム錯体への還元が難しく,この錯体が一度しか使えないという問題点があった。
研究では,1,3-ジメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール(BIH)を電子源として用いることで,酸化型ルテニウム錯体が還元型ルテニウム錯体へと還元された。さらに還元型ルテニウム錯体の配位子の有機ヒドリドがCO2をうまく還元させることで,触媒的にCO2の還元反応が進行した。
BIHから生じたBI・が還元型ルテニウム錯体をさらに一電子還元させ,このルテニウム錯体が反応の活性種であることも明らかになった。二酸化炭素を還元させた活性種は,中性のラジカル種となり,このラジカル種がすぐに再び分子間不均一化反応を経て,還元体と酸化体へとなり,触媒的に反応が進行したと考えられるという。
これにより,これまで再生することができなかった金属ヒドリドに置き換わる新たな有機ヒドリドによる還元反応へと広がっていくことが期待される。研究グループは,この系を発展させることで,CO2の化学変換(大気中からの削減)や,それに伴う新たな化学燃料の合成が可能となり,人工光合成の創製も期待されるとしている。