筑波大学の研究グループは,テラヘルツ波を用いたストリーキング法で得られたシグナルの低周波成分をうまく解析すれば,10兆分の1秒以上の電子線パルスを評価できることを示した(ニュースリリース)。
フェムト秒からピコ秒のパルス幅を持つ極短パルス電子線は,光を当てたときに物質に生じる瞬間的な原子や分子の運動を直接的に観測するために使われてきた。これらの計測の時間分解能は電子線のパルス幅によって決まる。
この極短パルス電子線のパルス幅を評価する手法としては,真空中で発生させたプラズマと電子線の相互作用を用いるもの,ポンデロモーティブ力によって電子を散乱させる手法,瞬間的な電場を生じさせて電子を偏向させる方法(ストリーキング法)などが考案されてきた。
しかし,これらの方法にはパルス幅によって使える手法が限られている,あるいは複雑な光学系を真空装置内に入れないため,簡便かつ汎用的に極短パルス電子線のパルス幅を評価する手法が求められていた。
研究グループは今回,ピコ秒のパルス幅を持つテラヘルツ波を共振器に導入することでできる瞬間的な電場を用い,電子線を時間的に偏向する(ストリーキング法)ことで,電子線のプロファイルを計測し,そのパルス幅の評価を行なった。
通常,パルス電子線は真空装置内で発生し,物質と相互作用することで検出される。従って,パルス電子線を評価するための光学系は,真空の中に設置することが多かった。一方,テラヘルツ波を用いたストリーキング法では,パルス電子線を評価するための光学系を真空装置の外に置くことができるため,装置の自由度が高い。
ストリーキング法では,時間的に変化する電場でパルス電子線を偏向し,そのスクリーン上での偏向角をパルス幅として換算することで,そのパルス幅を評価する。その際,共振器内で形成される電場の周波数の半周期以上のパルス幅を持つパルス電子線は,スクリーン上において同じところに記録されるため,評価が難しい。このため,テラヘルツ波を用いたストリーキング法では従来,共振器内で形成される電場の周波数の半周期以下のパルス幅(10兆分の1秒以下)の電子線しか評価できなかった。
研究グループは,テラヘルツ波を用いたストリーキング法で得られた結果に関して,テラヘルツ波に含まれるより低周波成分に注目し,この低周波成分による電子線の偏向成分だけを取り出して解析することで,10兆分の1秒以上のパルス幅を持つ電子線の評価が可能であることを示すことに成功した。また,テラヘルツ波を用いたストリーキング法に必要なテラヘルツ波の強度は,数kV/cm以下と比較的弱くてもよいことも示した。
この手法は,さまざまな電子線源のパルス幅を計測する上で極めて重要。テラヘルツ波とパルス電子線を利用するので,テラヘルツ波が照射された誘電体中の原子や分子の運動の観察などにも利用できる。また,将来的には100兆分の1秒以下の時間分解能での計測が可能な装置も期待できるとしている。