日本電信電話(NTT)とメディカロイドは,手術支援ロボットとIOWNオールフォトニクス・ネットワーク(APN)を接続することで,物理的に離れた環境を1つの環境のように統合し,手術室の状況をよりリアルに伝送でき,コミュニケーションがスムーズに行なえる場の共有をめざした共同実証を開始した(ニュースリリース)。
手術支援ロボットによる遠隔手術は,人口減少や外科医師数の減少,医療の均てん化といった社会課題の解決だけでなく,地域医療支援と若手外科医の教育・育成による医療レベルの向上にも寄与することが期待されている。一方で,実現に向けては以下のような課題がある。
①手術支援ロボットの遠隔操作は,ネットワークでの遅延やゆらぎの影響を大きく受けるため,執刀医がストレスなく,通常のロボット手術と変わらない形で遠隔手術を行なえること
②遠く離れた環境では手術中の意思疎通を図るコミュニケーションが重要であり,執刀医や医療従事者が長時間ヘッドホン等のデバイスを装着することはストレスとなるため,デバイスを装着することなく空間環境全体の映像や音などの情報を高品質かつリアルタイムに伝送できること
③遠隔手術ではロボットにかかわる情報だけでなく,バイタルデータなどの個人に関わる情報を安全かつ正確に伝送するため,量子コンピュータでも解読されない高度なセキュリティ対策が講じられること
この研究では,APNを中心としたNTTの技術を応用することで以下の実証を継続して実施する。
①拠点間で1波長あたり100Gb/s以上の大容量,物理限界に迫る低遅延性,ネットワーク遅延の時間変動がない遅延ゆらぎほぼゼロの特徴を持つ光伝送パスを実現し,通常の手術と変わらない動きでの遠隔操作に関する実証
②超低遅延映像伝送技術により,8Kの超高精細映像で手術環境の共有に必要な手術支援ロボット以外の情報を光伝送パスに非圧縮でダイレクトに送出し,長距離かつ超低遅延のリアルタイムコミュニケーションを行なうとともに,コミュニケーションの阻害要因となる音のみを除去するノイズキャンセリングにより同一環境で手術しているかのような手術環境の共有に関する実証
③量子計算機でも攻撃が困難な暗号鍵交換技術やセキュア光トランスポートネットワーク技術を用いて,遠隔手術で送受信するデータを耐量子計算機暗号技術で交換した暗号鍵で暗号化することによる,量子計算機時代のセキュリティ確保に関する実証
同社は今後,この研究および技術を適用した遠隔手術支援のフィールド実証を共同で進め,遠隔医療の更なる拡大による医療の質の向上,質の高い医療へのアクセシビリティの確保に貢献するとともに,各産業分野における課題解決ならびに,社会課題の解決に展開していくとしている。