東京工業大学と米カリフォルニア大学サンディエゴ校は,正孔輸送材料の性能を向上させる等原子価の不純物を用いた正孔ドーピング法を開発した(ニュースリリース)。
ペロブスカイト太陽電池では,これまでp型半導体として使われてきた有機半導体中において,正孔ドーパントが発電層を劣化させる要因となっている。一方,化学的に安定な無機のp型半導体の作製には高温での熱処理が必要なため,低温で作製でき,しかも優れた正孔輸送能を持つ,p型無機半導体の開発に期待が集まっている。
今回,研究グループは化学的に安定で,溶液法で比較的容易に薄膜形成が可能なワイドギャップp型無機半導体のヨウ化銅(CuI)に着目した。しかし,純粋なCuIは正孔濃度が低く,高い濃度で制御できる正孔ドーピングの開発が不可欠であった。
従来の方法では構成原子よりも原子価が低いイオンが不純物として用いられてきたが,一価の銅イオンより低い価数(ゼロ価)のイオンが存在しないため,銅化合物への正孔ドーピング手法は確立されていない。
そこで研究では,原子価は一価で銅と同じだが,サイズが大きいアルカリイオンのドーピングが正孔濃度向上に有効なことを実験的に見出し,その原理を第一原理計算により解析し,添加したアルカリイオンと銅イオンの空孔が結合した複合欠陥が正孔の供給源(電子のアクセプター)になることを明らかにした。
これにより等原子価不純物を用いて,高い正孔濃度と正孔移動度を持つp型ヨウ化銅薄膜を塗布法で作製が可能となるため,耐久性が求められるペロブスカイト太陽電池などの高性能な正孔輸送層への応用が期待されるという。
この正孔ドーピング法は,半導体素子に広く使われている基盤技術であり,とりわけp型半導体が含まれる太陽電池の性能向上につながると考えられるもの。研究グループは,アルカリ不純物による銅一価半導体の正孔ドーピングのメカニズムが明らかになったことで,未解明となっているCIGS太陽電池の性能向上に不可欠なアルカリ不純物の役割解明に貢献もできそうだとしている。