理化学研究所(理研),筑波大学,高輝度光科学研究センター,ドイツ電子シンクロトロン,ポーランド アダム・ミツキェヴィチ大学は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いて,X線を照射された原子はしばらくの間ほぼ停止していることを明らかにした(ニュースリリース)。
XFELの主な用途の一つにタンパク質の構造解析がある。XFELの100fs以下の短い時間幅(パルス幅)のもとでは,X線照射中のタンパク質の著しい構造変化は起こらないことが明らかになっている。
これを利用することで,通常のX線光源では放射線損傷のために測定が難しい試料も,その構造を調べることができる。現在,XFELを用いたタンパク質の構造解析では,原子の位置を10ピコメートル程度の空間分解能で決定できる。
一方で,「SPring-8」などの放射光施設では,物質の構造を1pm程度の空間分解能で可視化する「精密X線構造解析」が盛んに行なわれている。しかし,XFELを用いた精密構造解析は実現例がなく,XFELの高い強度のもとで精密な構造解析ができるかどうかは不明だった。
研究グループは,XFELを用いて精密構造解析が可能か検証するために,「SACLA」で開発されたX線ポンプ・X線プローブ法を用いた実験を行なった。試料は,精密X線構造解析で標準試料として用いられる酸化アルミニウム(Al2O3)の結晶を使用した。
X線ポンプ・X線プローブ法では,時間差を制御した二つのXFELビームを用いる。試料に最初に当たるXFELビームを,構造変化を引き起こす「ポンプ光」として,次に当たるXFELビームを試料の様子を調べる「プローブ光」として用いる。ポンプ光とプローブ光の時間間隔を0.3~100fsまで変化させながら,プローブ光による試料からの回折強度を精密に測定した。
測定した回折強度を解析することで,ポンプ光照射後にAl原子およびO原子の位置が時間とともにどのように変化していくのかを捉えた。その結果,X線を照射してから約20fsの間,原子はわずか1pm程度以下しか動いていない,つまりほぼ停止した状態にあることが分かった。
また,この実験結果と数値シミュレーションの結果から,原子の停止時間はX線照射後に電子全体が励起する時間によって決まることが分かった。この電子の励起に要する時間は,物質に依らず20fs以上だったことから,X線の時間幅を20fs程度以下にすれば,試料が放射線損傷で壊れることなく精密X線構造解析ができることが明らかになった。
研究グループは今後,放射線損傷のない精密構造解析がXFELで実現されることが期待できるとしている。