京大,核磁気共鳴のレーザー検出器を小型化

京都大学の研究グループは,ハイブリッド量子技術を用いた核磁気共鳴法(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)の光検出器を小型化し,超伝導磁場中でNMR測定を行なうことに成功した(ニュースリリース)。

物質の内部の構造やダイナミクスを知りたいとき,磁場中に置かれた物質に外部からラジオ波とを照射して,物質内部の核が持つ磁化(核スピン)を選択的に揺さぶることによって調べるNMRがある。NMRは磁気共鳴画像法(MRI)にも応用され,現代の化学分析や医療においても不可欠だが,NMRは原理的に感度が低く,その向上が課題となっている。

NMR信号を感度よく取得するためには,検出において混入する雑音を低減することが必要となる。雑音を減らす検出方法として,Electro-Mechano-Optical(EMO)NMRというハイブリッド量子技術を応用した新規手法がある。この方法では,窒化ケイ素薄膜を用いて,ラジオ波であるNMR信号を光に変換する。

薄膜はNMR信号受信回路のキャパシタとして組み込まれており,微弱なNMR信号を受信すると薄膜が振動する。薄膜の微小な振動を光の干渉によって低雑音でとらえ,NMRの高感度化につながると理論的に示唆されている。

しかし,光学系を組むためには、大掛かりな光学定盤の上にレンズやミラーを固定してシステムを構築するのが普通で,化学分析で用いられるNMR装置が備える,均一度の高い超伝導磁石の限られた内部空間に設置できるようなものは存在しなかった。

研究グループは,超伝導磁石の内部にぴったり収まる小型なEMO NMR装置を設計・作製した。薄膜は空気の抵抗によって振動が減衰しないように真空中に置くことが重要。その上で,電気的・光学的につながっていることが必要となる。

従来の方法では,一辺200mmの立方体形の真空部屋を光学定盤の上に固定して実験を行なっていたが,これらの要件を満たしながら,装置は持ち運び可能な直径60mmの筒状の形状にまで小型化し,レンズやミラーも鉛直方向に配列した。超伝導磁石の中で使うために,磁性体は極力使わずに組み立てた。

さらに,EMO NMRが化学分析に広く応用可能であることを示すために,二種類の原子核を揺さぶることで磁化を移し信号強度を補うINEPT法と呼ばれる化学分析で一般的な二重共鳴の手法を取り入れ,例としてベンゼンの水素原子核から炭素13原子核へ磁化を移し,炭素13のNMR信号を取得することに成功した。

これにより物理学的な観点から研究が行なわれてきたEMO NMRの,化学分析手法としての道が開かれたとする。研究グループはレーザー冷却による薄膜振動の制御と組み合わせれば,さらに高度な検出も可能だとしている。

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