神戸大学,大阪大学,東京大学は,テラヘルツ電磁波の非相反線二色性の観測に成功した(ニュースリリース)。
誘電性と磁性が強く相関したマルチフェロイックと呼ばれる物質群では,磁場によって電気分極が,電場によって磁化が制御できる電気磁気効果が現れる。
研究対象物質のPb(TiO)Cu4(PO4)4は線形電気磁気効果を示すことが知られていた。このような物質に電磁波を透過させると,電磁波の振動磁場成分と振動電場成分が作用し,磁化・電気分極も振動する。
マルチフェロイック物質では,電気磁気効果のため,電磁波の吸収において干渉効果が現れる。Pb(TiO)Cu4(PO4)4もこの干渉効果により非相反線二色性(電磁波の進行方向による透過性の違い)の発現が期待でき,可視光領域の電磁波において実際に観測されている。研究では,テラヘルツ領域の電磁波の非相反線二色性の観測を試みた。
磁性体では,電磁波の振動磁場成分による磁化の振動や歳差運動(磁気励起)が起こる。これは電子スピン共鳴(ESR)と呼ばれ,磁性体の物性を担っている電子スピンの状態を反映している。このためESR測定は,微視的に電子スピンの状態を調べることができる実験として,一般的に行なわれている。
研究では,マルチフェロイック物質における特異な磁気励起の研究を目的とし,Pb(TiO)Cu4(PO4)4のESRをパルス強磁場下で,50テスラ,2THzという非常に広い磁場・周波数領域で調べた。
実験結果と理論計算により見積もられた磁気励起エネルギーの磁場依存性を比較したところ,非常によく似た形になっていることが分かった。つまり,定性的に実験結果を研究対象物質のモデル計算で再現しており,ここから磁気状態を詳しく理解することができた。
また,テラヘルツ領域の電磁波の非相反線二色性にも成功した。通常のESR測定に加え,0.15THzの交流電場を外部から印加するという独自の測定法を用いることで,非常に小さな効果であった非相反線二色性を観測することができた。この方法を利用すれば小さな非相反現象も確実に観測することができるという。
研究のパルス強磁場ESR測定を実施した装置は,50テスラ,3THzほどの広い磁場・周波数測定領域を有しており,今後さらに多くの物質への研究利用が期待される。また,テラヘルツ領域の電磁波は,超高速無線通信への利用(Beyond 5G/6G)も計画されており,研究グループは,今回観測した非相反線二色性について,新しいデバイスなどへの利用も期待できるとしている。