情報通信研究機構(NICT),産業技術総合研究所,名古屋大学は,超伝導材料にアルミニウムを使用しない超伝導量子ビットとして,シリコン基板上のエピタキシャル成長を用いた窒化物超伝導量子ビットの開発に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
超伝導量子ビットは固体素子であるため外乱の影響を受けやすく,量子重ね合わせ状態の寿命であるコヒーレンス時間をいかにして延伸するかが課題となっている。
この課題の克服に向け,世界ではアルミニウム(Al)とアルミニウム酸化膜(AlOx)が用いられている。しかし,非晶質の酸化アルミニウムはノイズ源として懸念されていた。
NICTは,より誘電損失が小さいシリコン(Si)基板上に窒化チタン(TiN)をバッファ層として,NbN/AlN/NbNエピタキシャル接合を実現している。今回,シリコン基板上に作製したNbN/AlN/NbN接合を用いた量子ビット回路を設計・作製・評価した。
超伝導量子ビットは,マイクロ波を介してその状態制御と読出しを行なうため,実験で用いる基本回路は,量子ビットがマイクロ波共振器と結合した構造となる。このような基本回路をSi基板上にエピタキシャル成長させた窒化物超伝導体で作製した。
熱揺らぎが小さな10mKの極低温で,量子ビットと弱く結合した共振器のマイクロ波伝送特性を測定した結果,量子ビットのコヒーレンス時間の指標となるエネルギー緩和時間(T1),位相緩和時間(T2)について,それぞれ18マイクロ秒,23マイクロ秒が得られた。
さらに100回測定の平均値としては,T1=16マイクロ秒,T2=22マイクロ秒を達成した。これは,MgO基板上の超伝導量子ビットに比べて,T1で約32倍,T2で約44倍の改善だという。
今回の結果は,超伝導量子ビットの心臓部であるジョセフソン接合に従来のアルミニウムとアルミニウム酸化膜を使用せず,それよりも超伝導転移温度が高く、エピタキシャル成長で結晶性が優れている窒化物超伝導量子ビットの開発に成功したことに大きな意味があるとする。
特に,Si 基板上にエピタキシャル成長させることで誘電損失を減らし,窒化物超伝導量子ビットから数十マイクロ秒台のコヒーレンス時間観測に成功したのは,世界で初めてだという。
研究グループは,この窒化物の超伝導量子ビットはまだ開発初期段階で,量子ビットのデザインや作製プロセスの最適化により,コヒーレンス時間の更なる改善が可能だとしている。