海洋研究開発機構(JAMSTEC)と農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は,地中の生物の動きをリアルタイムで可視化する装置「Fiber-RADGET(Fiber-radicle gadget)」を開発した(ニュースリリース)。
地球規模の環境変動が進む現代,持続的な食料生産を行うためには干ばつや養分欠乏などの環境ストレス下でも栽培できる作物を迅速に開発する必要がある。根は養水分を吸収するうえで必須の器官であり,その形の違いは植物の環境ストレス耐性に大きく作用する。
そこで,近年根系の改良に注目が集まっている。改良には根の生長を調べる必要があるが,地中に存在する根を掘り起こさず,リアルタイムで観測することはこれまで困難とされていた。
研究グループは,根の生長をリアルタイムで可視化する方法を確立するにあたって,時にコンクリートさえ突き破る根の力強さに着目し,根が土を押す応力から根のサイズや位置などを特定できるか検討した。
根が土を押すと,それに合わせて地中が変形する。変形を測定できる分布型光ファイバセンシングを用いることで,その数値から根の状態を逆算できると考えた。このような理論のもと,実際に根の「可視化」を検証した。
細い根による微弱な応力でも検出できるよう高感度な光ファイバセンシング装置「Fiber-RADGET」を開発し,地中などの光が通らない不可視領域で植物根の生長を観測した。その結果,装置を柔らかく丈夫な円筒状に加工し,不可視領域に事前に設置することで,微小な動きを検出できることが判明した。
ハツカダイコンを用いて実験を行なったところ,根の生長に合わせて光ファイバに発生するひずみが変化する様子が観測できた。3週間観測した後,動きが止まったのでX線CTで確認したところ,ひずみが大きく発生した位置と肥大した根の位置が一致したという。
このように,理論と実験の両方で,微小な生物の動きを検出・可視化できることが分かった。研究グループは,この発明により,これまで不可視領域であった地中で、植物根の生長や小動物の活動,微生物の複合構造形成など幅広い生物の動きをリアルタイム観測することが可能となる。さらに,海洋研究への利用として海底環境下の生態調査への展開なども考えられるとしている。