広島大ら,熱膨張ゼロのインバー効果の起源を解明

広島大学,東京理科大学,高輝度光科学研究センター,京都大学,愛媛大学は,Fe-Niインバー合金の「インバー効果」と呼ばれる熱膨張が生じずゼロとなるメカニズムが,原子レベルで構造を可視化するとFe-Fe原子間距離の伸び縮みであることを明らかにした(ニュースリリース)。

Fe-Ni合金では,35-36at.%のごく狭いNi組成の合金で線熱膨張係数が一桁以上降下し「インバー効果」として知られるゼロの熱膨張を示し,精密部品に広く利用されている。

強磁性であるインバー合金は磁化の自乗に比例して体積が膨張する磁気体積効果が極めて大きい。温度が上がると磁化が減少するので体積膨張が弱まって体積が収縮する。この磁気体積効果が格子振動による通常の熱膨張を打ち消し,ゼロ熱膨張が実現する。一方でインバー合金ではなぜ磁気体積効果が大きいのは,分かっていなかった。

インバー合金のようにFe原子とNi原子がランダムに配置する不規則合金では,原子番号が近いFe原子とNi原子の区別が難しく,X線回折ではその構造が空間的に平均されて面心立方格子と呼ばれる結晶構造に見える。一方,X線吸収分光法の一手法である広域X線吸収微細構造(EXAFS)で元素選択的に短距離構造をみると,Fe原子の周りとNi原子の周りで異なる短距離構造が観測された。

そこで研究グループは,これらの結果を逆モンテカルロ法で解析し,X線回折とEXAFSの結果を矛盾なく説明する合金構造を導出した。得られた合金構造の原子配置を詳しくみればFe-Fe,Fe-Ni,Ni-Ni原子の3種類の原子間距離をそれぞれ抽出できる。

さらに原子間距離の圧力変化を導出した結果,強磁性の低圧相ではFe-Feの原子間距離がFe-NiとNi-Niと比べて約0.02Åも長いことが分かった。しかしこの差は加圧で減少し,磁気転移圧力を超えて磁石に付かない常磁性の高圧相では3種類の原子間距離はほぼ同じになる。

この結果は,磁気体積効果による体積膨張を原子レベルでみるとFe-Fe原子対の伸長によって実現することを示す。つまりFe-Fe原子対が磁化の増減に応じて伸び縮みすることで熱膨張ゼロが生じると分かった。

研究グループは,X線回折とEXAFSおよび逆モンテカルロ法を融合するこの手法は,Fe-Ni合金に限らず鉄鋼材料など様々な不規則合金に適用できるため,その特性向上や新規材料開発に繋げることが可能だとしている。

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