熊本大学と筑波大学は,ジルコニアセラミックスの破壊過程のリアルタイム観察を行ない,高靭化モデルを実証した(ニュースリリース)。
ジルコニアセラミックス(ZrO2)は高い強度と粘り強さ(靭性)を併せ持つ材料として知られている。融点が高く耐熱性にも優れるので,歯科材料や医療器具,宝飾品や刃物などの日用品まで幅広く使われている。そして,ジルコニアセラミックスの靭性が高く壊れにくい理由は,外から力が加わった時に起きる結晶構造の変化にあると考えられている。
しかし,これまでの研究では,ジルコニアセラミックスが壊れていくときの結晶構造を直接観察することはできず,破壊の前後の状態の比較から,壊れるときにどのような変化が起きるのかを推測していた。特に,衝撃のような瞬間的に大きな力が加わってジルコニアセラミックスが壊れる際に,どのような時間スケールで結晶構造変化が起きているのかは明らかになっていなかった。
研究では,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の放射光実験施設「PF-AR」の「衝撃下その場X線回折測定システム」を用いて,衝撃波がジルコニアセラミックス内部を伝わり,破壊が起きていく過程を詳細に観察した。
この手法では,高強度レーザーを試料に照射することで衝撃波を発生させ,衝撃前から衝撃をまさに受けている瞬間,さらにはその後に衝撃から解放されるまでの結晶構造変化を放射光施設の強いX線により撮影する。試料には,縦横5mm,厚さ50μmのジルコニアセラミックスを使い,破壊が進展していく際の結晶構造の変化をリアルタイムで観察することに初めて成功した。
具体的には,衝撃が加わってから壊れるまでの結晶構造を,X線を用いてナノ秒の時間スケールで時間分解観察することで,破壊が起きるところで結晶構造が変化している様子を実際に撮影することに成功した。
衝撃波の速度プロファイルを別の測定で求めた結果,衝撃波が約5nsという短いパルス的であること(つまり衝撃波の先頭から5ns後ろには解放波が来る),衝撃波は約8nsで試料裏面に到達し,解放波として反射し再び試料内部を伝わることがわかり,結晶構造の変化が破壊の瞬間に起きることを実証した。
材料の破壊時の動きについてより深く理解することは,より良い材料の開発に役立つことが期待される。研究グループは今後も,実験と観察から材料の物性を解明していくことを目指すとしている。