東京大学の研究グループは,腫瘍細胞における酵素活性を利用する仕組みを応用することで手術中に脳腫瘍を蛍光標識できる(蛍光を発することで識別しやすくする),局所投与型の蛍光プローブを開発した(ニュースリリース)。
脳腫瘍で最も多く見られる神経膠腫の治療では,手術によって腫瘍を摘出する際の取り残しをできる限り無くすことが極めて重要だが,染み込むように発育する腫瘍のため肉眼では非腫瘍部分との判別が難しく,脳を闇雲に大きく取り除くこともできない。そのため,患者の術後の状態を悪くせずに腫瘍を最大限摘出するために,術中に蛍光プローブによる腫瘍の可視化することが期待されている。
現在,5-アミノレブリン酸(5-ALA)が唯一保険収載されている薬剤として使用されているが,蛍光を示すまでに時間がかかるため術前内服が必要であり,手術終盤で蛍光が弱まりがちであるといった難点がある。
そこで研究グループは,,開発済みであったHydroxymethyl Rhodamine Green(HMRG)を蛍光母核とした300種類以上のアミノペプチダーゼ型蛍光プローブライブラリーを用いて,がん部位イメージング法を応用した新しい蛍光プローブPR-HMRGを開発した(国際特許出願済)。
この蛍光プローブは,局所に直接投与後わずか数分で腫瘍を識別可能という即時性を持ち合わせ,微量投与のため安全で,かつ繰り返し使用可能という利点を有しているため,実際の手術において局所投与で使用可能だと考えられるという。
手術中いつでもその場で腫瘍に「色をつける」ことが可能となり,肉眼では判別困難な腫瘍を容易に認識できるため摘出度が向上し,神経膠腫治療の成績が改善することが期待される。
さらに,PR-HMRGを既存の5-ALAと併用することで,蛍光波長も蛍光メカニズムも異なる二つの蛍光プローブにより腫瘍を特異的に標識し,より精度の高い術中蛍光標識が可能になるという。
現在研究グループでは引き続き,PR-HMRGプローブの有効性と安全性を非臨床試験の形で検証中であり,将来的には実際に患者さんに投与する臨床試験を経て,臨床応用を目指すとしている。