神戸大学の研究グループは,イネを用いて光合成によって作られるデンプンの量を調節する仕組みの解明に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
二酸化炭素濃度の高い条件で作物を育てると,デンプンの合成が促進され,生育が旺盛になり,収量も増加する。
研究グループは,イネを研究材料として二酸化炭素濃度の高い条件で働きが活発になる機能未知のCCTタンパク質(CRCT)について研究を進め,CRCTがデンプン合成の調節に働く重要なタンパク質であることを明らかにした。しかし,CRCTがどのようにデンプン合成を調節しているのかは不明だった。
デンプンを合成するには,グルコース6-リン酸/リン酸輸送体,ADPグルコースホスホリラーゼ,デンプン合成酵素,デンプン枝作り酵素など多数のタンパク質が必要。研究グループはCRCTが,それら複数のデンプン合成関連タンパク質の遺伝子の働きを一括して調節していると予想した。
遺伝子の働きを調節するタンパク質は転写因子と呼ばれ,多くの場合に別のタンパク質と複合体を形成している。植物体内でのCRCTの大きさを分析したところ,CRCTは何らかのタンパク質と複合体を形成していることがわかった。
次に,CRCTに特異的に結合する抗体を用いた分析を行ない,CRCTと結合しているのが14-3-3タンパク質であること特定した。また,緑色蛍光タンパク質を用いた分析により,CRCTと14-3-3タンパク質は,核内で複合体を形成していることを明らかにした。
CRCTは維管束の師部で合成された後,デンプンを貯蔵する柔細胞に移動して働いている可能性も示した。さらに,CRCTは複数のデンプン合成関連遺伝子の働きを調節する領域に結合できること,転写を促進する働きを持っていることも明らかにした。
14-3-3タンパク質とデンプンの量は負に相関することが知られていた。一方,今回の研究からCRCTとデンプンの量は正に相関することがわかっている。これらのことから,研究グループは,14-3-3タンパク質とCRCTは不活性型の複合体を形成していると予想した。
植物にとってデンプン合成は最重要であり,その調節に働くCRCTは農作物の品質や生産性の改良の有力なターゲットとなる。また,二酸化炭素濃度が高い条件で働きが活発になる遺伝子であり,将来的な二酸化炭素濃度の高い環境に適応したイネの育種に役立つ可能性もあるとしている。