東京大学,北海道大学,高輝度光科学研究センター,東京工業大学は,地球誕生時にもたらされた水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことを明らかにした(ニュースリリース)。
地球の起源を理解する上で,水がどこからどのくらい来てどこに行ったのかは重要な問題となる。さらに,地球の液体コア(外核)の密度は純鉄(もしくは鉄ニッケル合金)よりも8%小さく,軽い元素が大量に含まれていることを意味するが,軽元素の「正体」が水素であるかどうかは突き止められていない。
地球形成時,地球はマグマの海(マグマオーシャン)に覆われ,その中を金属鉄がコアへ落下していったとされる。その際、金属は周囲のマグマと化学反応を起こし,マグマに含まれていた軽元素を取り込んだろ考えられる。
しかし,コア(金属)とマントル(マグマ)が化学的にどう分離した(化学反応を終えた)たとされる,およそ50万気圧・3,500度の高圧高温下で水素(水)がマグマと金属鉄の間でどう分配されるかは,実験的に困難なゆえ明らかにされていなかった。
この実験を可能にするには、2つの大きな困難があった。1つめは,鉄中の水素量の超高圧その場での分析。2つめは,マグマだった部分の水素の定量。こちらは試料のサイズが10ミクロン程度しかなく,超高圧で実験した試料中の水の分析は,先行事例はほぼなかった。
今回研究グループは,レーザー加熱式ダイヤモンドセルを用いて30–60万気圧・2,800–4,300度の高圧高温状態を作り出し,マグマと金属鉄の間で水素の分配実験を行なった。
そして,ごく微小(10ミクロン程度)な高圧高温実験試料中に含まれる,金属鉄中の水素とマグマ中の水の量を,大型放射光施設SPring-8におけるX線回折測定と北海道大学の同位体顕微鏡による微小領域化学分析によって,それぞれ決定することに成功した。これにより,コアとマントルの間の水(水素)の分配が明らかになった。
この結果から,当時地球に存在した水の9割以上が水素としてコアに取り込まれたことがわかり,水素がコアの主要な軽元素であることがわかった。また地球のみならず,火星など地球の1/10以上の質量をもつ岩石型惑星においても,大量の水が水素としてコアに取り込まれた可能性が高いことがわかった。
現在の海水の量やマントル中の水の量を説明するには,現在の海水のおよそ50倍に匹敵する量の水が原始地球に存在したと考えられるという。研究グループでは今後,これを鍵として,地球の起源(特に材料物質や集積プロセス)の理解が進むと期待できるとしている。