金沢大学の研究グループは,ペロブスカイト太陽電池の高性能化と長寿命化に成功した(ニュースリリース)。
研究グループが今回導入したイオン液体は,常温で液体として存在できる塩であり,同大でも木質バイオマスのセルロースを溶解する溶媒かつ反応を促進する触媒として研究開発が活発化している。
研究グループは2015年,有機無機ハイブリットである新しい材料のペロブスカイト太陽電池の塗布成膜の時に,このイオン液体を添加するのみでナノ粒子薄膜が得られることを見出している。この技術は,単純に溶液に少量加えて,従来通りスピンコートで製膜するとナノ粒子化する技術であり,簡便性と低コスト化の可能性をもたらす技術として開発を進めている。
研究では,この技術をペロブスカイトの構成分子であるカチオン種をセシウムーホルムアミジニウムーメチルアンモニウムの3つの陽イオンをベースとした高性能なトリプルカチオン型ペロブスカイト太陽電池に応用した。このトリプルカチオン型ペロブスカイト太陽電池は,結晶Si太陽電池に匹敵する性能をもつことで注目されている。
イオン液体をメチルアンモニウムのみのMAPbI3ペロブスカイト前駆体溶液に添加し塗布製膜すると,MAPbI3ペロブスカイトナノ粒子薄膜が基板上に初期成長する。その上にトリプルカチオン型ペロブスカイトを塗布製膜すると,MAPbI3ペロブスカイトナノ粒子を成長核として,大粒で高結晶性の高品質なグレンインサイズの大きい,いわゆる欠陥が少ないトリプルカチオン型ペロブスカイト膜を得ることに成功した。
この太陽電池のエネルギー変換効率は19.4%と高く,電流値である短絡電流密度も25.3mAcm-2と大きな値を示すことが分かった。これはイオン液体添加により高品質化し,全体的な光捕集効率の向上およびキャリア輸送性能向上に起因するものと考えられるという。
この技術でもたらされる最も重要な利点として,暴露試験において湿度30%〜40%の範囲の通常大気下で6000時間性能が8割保持されたことにある。これは,イオン液体添加により膜が高品質化したこと,およびイオン液体層が外部からの水の侵入を防いだため,長寿命化したと考えられるという。
研究グループは今後,ペロブスカイト太陽電池の実用化およびさらなる高性能化と低コスト化を目指していく。さらに,イオン液体は太陽電池だけではなく,何にでも効く万能薬の可能性があり,同大がその研究活動の中心地となることが期待されるとしている。