愛媛大学と信州大学は,平面および曲面状のピロール縮環アザコロネン類の合成に成功し,その特徴的な構造,酸化還元特性,ならびに芳香族性に及ぼす影響などを明らかにした(ニュースリリース)。
近年,多環式芳香族化合物を構造の明確なグラフェンと見立てた合成化学的アプローチに基づく研究例が注目を集めている。
研究グループでは,ピロール用いた含窒素多環式芳香族化合物の一つである,ピロール縮環アザコロネン(HPHAC)の合成とその基本的な性質の解明に関する研究を行なってきた。
HPHAC類は電子豊富なピロールから構成されることから,酸化されやすく,特にそのジカチオン種では大環状共役に基づくグローバル芳香族性を示すといったユニークな特徴が明らかにされている。
しかしながら,これまでに報告されている化合物にはすべて,外周部にかさ高い置換基が導入されており,HPHAC骨格そのものが有する性質やπ平面間相互作用に基づくπ電子機能の評価が行なえなかtった。
今回,HPHAC骨格の外周部にアルキル基を有する誘導体と,π平面の上下が凹面となったHPHAC誘導体を新たに合成した。アルキル基で修飾された HPHACは,既存の化合物よりも容易に酸化され,また安定な酸化還元特性を示す事が分かった。さらにその平面構造を反映して,電子不足型π電子系化合物と交互積層型のカラム構造を形成することを明らかにした。
一方,π電子系を拡張させたHPHACの設計・合成を行なったところ,二重に凹面を持った珍しいπ電子系化合物となることが分かった。その形を反映して,この電子豊富なHPHACが電子不足型π電子系化合物である球状のフラーレンと強く相互作用することを明らかにした。さらに,二つのジカチオン種のグローバル芳香族性の強さを比較したところ,両凹面HPHACの方が弱くなっていることが分かったという。
最近のπ電子系化合物に関する研究により,従来の平面性化合物からお椀や鞍型といった3次元構造をした化合物が報告されるようになってきた。しかし,単結晶X線構造解析などを用いてその構造的特徴を明らかにする以外,3次元構造がもたらすπ電子機能に着目した研究例はほとんどなかった。
研究グループは,共通する基本骨格を有しながらも,3次元的な構造が異なる類縁体との詳細な構造物性相関を解明することで,π電子機能が関与する有機エレクトロニクス・スピントロニクス材料の新たな設計指針が得られることが期待されるとしている。