北大ら,110℃で最高性能のスピン増幅を達成

北海道大学,スウエーデン リンショーピン大学,フィンランド タンペレ大学は,室温で90%,110℃でも80%もの高い電子スピン偏極を実用半導体で生成する光スピントロニクスナノ構造を開発した(ニュースリリース)。

次世代の情報社会には,消費電力の抜本的な削減が可能な光電融合情報基盤の構築が不可欠となる。

そのためには,電力消費なしに情報を保持する電子のスピン状態とエネルギー熱損失のない情報伝送を担う光の間で,スピン情報の直接変換が可能な光スピントロニクス半導体の開発が鍵を握っている。

実用半導体は非磁性で電子のスピン状態が偏極しておらず,実用に向けては,室温以上でほぼ完全にスピン偏極した電子を生成する必要がある。しかしながら,半導体では容易にスピンが失われ,これまでの研究では室温の電子スピン偏極率は60%以下にとどまっていた。

研究では薄いGaAsトンネルバリアを介してInAs量子ドットと希薄窒化GaAs(GaNAs)を量子力学的にトンネル結合させた試料を分子線エピタキシー法により作製。半導体中の電子スピン偏極率に対応する発光の円偏光度(光スピン情報)と,電子スピンの注入や緩和などのダイナミクスを測定し,量子ドットとGaNAsの間で生じる電子スピン偏極の増幅機構を調べた。

その結果,GaNAsの円偏光度50%に対して,量子ドットではほぼ完全なスピン偏極を意味する90%を超える円偏光度を観測した。これは従来研究の最大値60%を大きく上回り,世界最高性能のスピン増幅機能となるという。さらに110℃の高温でも80%の円偏光度を達成し,実用性が極めて高いことを実証した。

次に,そのスピン増幅メカニズムを調べた。通常の半導体量子ドットではスピンが保たれず時間初期から円偏光度の急激な減少が見られるが,この新しい半導体ナノ構造では15%から80%に至る円偏光度の巨大な増幅現象が見られた。

この80%を超える円偏光度は,量子ドットとGaNAsが強く結合するトンネルバリア厚5nm 以下の試料で観測され,GaNAsのスピンフィルタリング増幅が働き量子ドットで高いスピン偏極発光が得られたことがわかったという。

この成果により半導体中の電子スピン偏極を室温以上で増幅し光に変換する技術が革新され,鉄など金属磁性体ではできない光デバイスや電界操作を可能にする半導体スピントロニクスのパラダイムシフトが期待されるという。

また,発光層に用いたInAs量子ドットは,200℃を超える高温環境下でも安定したレーザ発振が実証されており,スピン偏極レーザーなど光スピントロニクスデバイスの開発が期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東大など、光電変換素子で不揮発量子スイッチングを実証

    東京大学と理化学研究所は、反強磁性体Mn3Snを用い、40ピコ秒という極めて短い電気パルスによって磁気状態をスイッチングできることを示した(ニュースリリース)。 生成AIや大規模機械学習の普及により、コンピュータでは演算…

    2026.05.20
  • 東北大ら、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱による磁区識別法を開発

    東北大学、早稲田大学、大阪公立大学は、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱(RIXS)による新たな磁区識別法を開発した(ニュースリリース)。 交替磁性体は全体としての磁化がゼロでありながら、スピンの分極した電子バンドを持つた…

    2025.11.26
  • 京大,スピン歳差運動をテラヘルツ光で読み出す技術を開発

    京都大学の研究グループは,強磁性体におけるスピン(磁化)歳差運動の情報を,テラヘルツ(THz)光の偏光回転として直接読み出すことに成功した(ニュースリリース)。 近年,情報処理技術の高速化と省電力化を目指し,電子のスピン…

    2025.11.06
  • 京大,磁化歳差をテラヘルツ光で読み出す技術を開発

    京都大学の研究グループは,強磁性体におけるスピン(磁化)歳差運動の情報を,テラヘルツ(THz)光の偏光回転として直接読み出すことに成功した(ニュースリリース)。 従来,磁化の超高速ダイナミクスの検出には,磁気光学効果やT…

    2025.10.30
  • 北大,光の回転が物質を動かす仕組みを解明

    北海道大学の研究グループは,光が物質に与える,回転の力(光トルク)の源である角運動量を,スピンと軌道の二つに分け,それぞれの損失量を個別に測定・解析できる新たな理論を提案した(ニュースリリース)。 光には,まっすぐ進むだ…

    2025.06.10

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア