大阪大学は,電気回路を構成する導体内の伝導現象と導体外の放射現象を同時に考慮した,電磁ノイズの高精度な定量化手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
電磁ノイズ現象を厳密に取り扱うためには,電気信号の伝導現象と外部への放射現象を同時に計算する必要がある。そこで研究グループは,マクスウェル方程式から導出されるスカラーポテンシャル(電位)Uと,ベクトルポテンシャルAの遅延積分方程式を厳密に解くことを目指した。
「遅延」とは,離れた場所から放射した電磁場の影響が遅れて生じることをいい,放射を考慮するためにはこの遅延による時間を考慮する必要がある。遅延を厳密に考慮するためには,時間のずれを伴う空間積分という複雑な計算をする必要がある。
従来法では,遅延時間を空間に依存しない定数で近似するといった手法が用いられていたが,数値計算が安定しない問題があった。そこで今回,時間のずれをより厳密に考慮した数値計算(離散化)手法を考案することで,数値計算の安定化を実現した。
さらに,導体内の電荷と電流との関係を表すオームの法則や連続の式,境界の回路素子(集中定数回路)も同時に計算するアルゴリズムを開発した。この研究で開発した手法を用いると,導体の形状によって,信号がどのように伝搬し,放射するのかを可視化することが可能になるという。
持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために,社会は電動化へと進んでいまるが,急速な電動化は,電力需給の逼迫や電磁ノイズによる目に見えない環境汚染など潜在的な問題を抱えている。研究グループは開発した電磁回路シミュレーターを用いて,正しく電力を扱い,正しく電力を消費することで,電気回路のさらなる低ノイズ・省電力化による「持続可能な電動化社会」を実現することを目指すとしている。