理研,水表面の10兆分の1秒の界面化学反応を観測

理化学研究所(理研)は,典型的な光化学反応の一つであるフェノールの光化学反応を水表面で直接観測することに成功し,水表面ではこの反応が水中よりも1万倍以上も速く進行することを発見した(ニュースリリース)。

分子が水の内部で完全に溶け込んだ状態と,水の表面にあって半分だけ水に囲まれている状態とでは,その分子の示す性質が少なからず異なっている可能性が指摘されており,水表面に存在する反応物,反応中間体,反応生成物などを,分子が反応する時間スケールで分解して観測することが求められている。

研究グループは,2016年に新しい界面選択的な超高速振動分光法「紫外励起時間分解ヘテロダイン検出振動和周波発生分光法」を開発した。

「ヘテロダイン検出振動和周波発生分光」では,可視光と赤外光のレーザー光を同時に水晶表面に集光し,参照光を作り出し,水晶を透過した三つの光を凹面鏡で集めて水表面のサンプルに再集光すると,水の表面のみから和周波光が発生する。参照光と和周波光の干渉パターンを解析することで,和周波光の強度のみならず位相も同時に決定できる。

一方,「紫外励起時間分解ヘテロダイン検出振動和周波発生分光法」では,まずパルス紫外光によって水表面のサンプルを光励起する。そして,その後の水表面の様子をヘテロダイン検出振動和周波発生分光によって界面選択的に(界面領域の化学変化だけを)観察する。

この方法では,1nm程度の薄い表面・界面領域で起こる化学変化のみを(水中の分子の反応を無視して),100fs程度の極めて高い時間分解能で観測できる。しかも,分子の指紋ともいわれる振動スペクトルを検出することで,観測される信号の由来となる分子を高い精度で同定できる。

今回,研究グループは,この分光法を水界面の化学反応研究に適用し,基本的分子であるフェノールの光化学反応(光酸解離反応)が水表面でどのように進んでいるのかを明らかにした結果,フェノール分子は水表面では水中より5万倍も速く反応することが分かった。

フェノールのような基本的な有機分子が水中と水表面で1万倍以上も反応速度が異なるという事実は,化学反応の促進やコントロールを目的とする学問分野である触媒化学において非常に重要となる。さらに,自然界の水は海水(泡も含む)やエアロゾルとして存在し、広大な表面積を持っていることから,水表面の化学反応は地球環境にも多大な影響を与えていると考えられる。

この成果は,今後触媒化学的,環境科学的に重要な多くの水表面化学反応を解明し,広い学問分野における水表面の効果と役割を明らかにするとしている。

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