産総研,偏波を分離してマイクロ波を可視化

産業技術総合研究所(産総研)は,原子の持つ微弱な磁性を利用することで,異なる偏波のマイクロ波をそれぞれ分離して可視化するマイクロ波偏波分離イメージング技術を開発した(ニュースリリース)。

これまで産総研では,セシウム原子の二重共鳴と呼ばれる現象を利用してセシウム原子にマイクロ波と近赤外光を同時に吸収させて,マイクロ波を近赤外領域の蛍光に変換し,それをCCDカメラで撮像して高速で高解像度にマイクロ波の空間分布を可視化する技術を開発してきた。しかしこの技術では,マイクロ波のすべての偏波を合わせた測定だけが可能だった。

今回,9GHz帯のマイクロ波と波長852nm(352THz)の近赤外光を吸収するセシウム原子を用いた。近赤外光を吸収したセシウム原子は瞬時に近赤外領域の蛍光を放射する。セシウム原子の基底状態には2つのエネルギー準位があり,波長を精密に制御し安定化した近赤外レーザーを照射すれば,上の準位にある原子だけに選択的に近赤外光を吸収させて,その原子から近赤外領域の蛍光を放射させることができる。

ここで,セシウム原子が持つ微弱な磁性を利用することで,マイクロ波の特定の偏波だけを吸収させることができる。セシウム原子に静磁場をかけると,原子が持つ磁気の強さに応じて原子の向きを揃えることができる。向きが揃えられた原子はその向きによって共鳴するマイクロ波の偏波と周波数がそれぞれ異なるため,マイクロ波の周波数を精密に制御することで,静磁場に平行な方向に振動するマイクロ波のみを吸収させる偏波分離が可能となるという。

この原理によって,ある方向に静磁場をかけて,その静磁場と平行な磁場のマイクロ波の偏波成分だけを可視化できる。今回この原理を実証するために,3軸コイルを用いて原子周辺の静磁場の方向と大きさを精密に制御し,鏡の角度を変調することで広範囲に均一なレーザー光を照射できるようにし,散乱や不要放射を除去するための電磁的な環境を整えた。さらに微弱な蛍光を観測するため高感度な近赤外線カメラを用いた。

シンプルなマイクロストリップライン(MSL)上の9GHz帯のマイクロ波のおのおのの偏波に対する可視化を行なったところ,偏波を分離したイメージングに成功し,従来のアンテナを用いた可視化技術では困難であった,マイクロ波の定在波の周期(MSL上では約11mm)以下の解像度を持つことが示された。

今回開発した技術は,kHz帯からTHz帯の幅広い周波数範囲の電磁波にも適用できると考えられ,5G/6G世代に対応した通信技術,電子部品の電磁波分布測定,室内や自動車内などでの電磁波の散乱測定への応用が見込まれるとしている。

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