大阪府立大学,広島大学,愛媛大学の研究グループは,レアアース化合物のイッテルビウム(Yb)イオンの価数が急激に変化する価数転移現象の仕組みを明らかにするために,高輝度シンクロトロン放射光を用いた高分解能角度分解光電子分光実験を行ない,伝導電子とYb 4f電子が量子力学的に混ざり合う様子を観測することに成功した(ニュースリリース)。
レアアース化合物では,イオンの価数が急に変化する価数転移と呼ばれる現象の仕組みが未解明だった。特に,レアアース化合物のYbInCu4では,Ybイオンの価数転移にともない磁性や電気伝導性が変わることが1986年頃に報告されていたが,価数転移の核心となる構成元素の電子状態はわかっていなかった。
そこで研究グループは,高均質かつ高純度のYbInCu4単結晶を合成し,高輝度シンクロトロン放射光と高分解能な角度分解光電子分光装置を組み合わせて,YbInCu4の電子状態を分析した。
その結果,価数が転移するマイナス231℃(絶対零度42K)より低い温度において,伝導電子とYb 4f電子が強く混成する様子を観測することに成功した。これは,伝導電子の一部がYb 4fイオンへ移動することを意味しており,価数の異なるYbイオンの間で電子を受け渡しているのは伝導電子であると考えられる。このような伝導電子の仲介プロセスは,長年議論されてきた価数転移現象の仕組みの候補になり,基礎物理学における重要な成果だという。
この研究で得られた証拠は,伝導電子が仲介する価数転移機構の核心部分を捉えたもの。この発見は,1986年頃から議論されてきた価数転移の仕組みについて研究の方向性を明確にするものであり,基礎物理学における重要な成果だという。
また,レアアースのYbは,レーザーや蛍光体などの光学材料に活用されており,Ybの価数が光学材料の機能や性能に関わっている。価数の変化量や転移点を制御することができれば,光学特性に優れた新しい材料を作ることができると考えられるため,今回の成果は,新しい光学材料の開発や物質探索の狙いをつけるうえで指針になることが期待されるとしている。