名古屋大学,大阪大学,東北大学は,高性能シンチレータを用いたX線カメラを開発し,α線核種アスタチン(211At)を投与したマウスの高分解能画像計測に成功した(ニュースリリース)。
一般的な放射線治療は,X線や粒子線を用いて患者の体外から放射線を照射するが,新しい放射線治療法として体の内部から放射線を照射するα線核医学治療が注目されている。
核医学治療はα線を放出する核種(放射性医薬品)をがん患者に投与し,全身のがん病変に集積させることで治療する。特に,α線は短い飛程で高いエネルギーを放出するために,がんを集中的に治療できる利点がある。α線を放出するアイソトープの中でもアスタチン(211At)は,核医学治療に有望な元素として臨床応用に向けた研究が進んでいる。
核医学治療の臨床応用を進めるには,マウスなどの小動物を用いた前臨床研究が必要だが,アスタチンの放出するα線は飛程が非常に短いため,体の外へ出てこないことから生きたままで体内分布を知ることは困難だった。アスタチンが壊変してできる娘核種のポロニウム(211Po)からはX線がα線と同時に放出されるので,このX線を画像化することが可能。しかし,このX線はエネルギーが低く,これまで高分解能画像を得ることができなかった。
この問題を解決するために,研究グループは,高性能シンチレータを用いた新しいX線カメラを開発した。カメラに用いたシンチレータは,東北大学が開発したセリウムを添加したYA1O3(YAP(Ce))で,このシンチレータが低エネルギーのX線を高い空間分解能で画像化できることを見出し,このシンチレータを利用することにより高分解能X線カメラを実現した。
開発したX線カメラの有効性を確認するために,アスタチンをマウスに静脈内投与し,体内分布の撮影を行なった。その結果,短時間で効率的に高分解能な分布画像を得ることができたという。
α線を用いた核医学治療は新しいがん治療であり,アスタチンなどのα線放出核種の前臨床研究や臨床試験を進めるためにはそれぞれのアイソトープに適した撮像装置が必要になる。研究グループは今回,世界に先駆けてアスタチンの撮像に最適なX線カメラを開発した。このカメラは,アスタチンを用いた核医学治療研究の発展に大きく寄与するものと期待される。今後製品化を進め,研究分野への普及を目指すとしている。