日本原子力研究開発機構と日本電気(NEC)は,電子スピンを利用して熱から電気を生む「スピン熱電素子」が,非常に高い放射線耐性を示すことを,重イオン加速器と放射光を使った実験で初めて実証した(ニューリリース)。
熱を電気に変換する熱電素子は,自動車や工場等で発生する廃熱を回収し再利用するグリーン技術や,IoTの電源となる環境発電技術の一環として重要視されている。また,熱電素子に放射性同位体を組み合わせた同位体電池は,宇宙探査機用電源として利用されており,放射線環境下でも負けずに動作する熱電素子の開発には大きな可能性が期待されている。
近年,電子スピンを利用したスピントロニクス技術に基づく「スピン熱電素子」が新たに開発され,設計自由度,低環境負荷,経済性の観点で既存技術を凌駕すると期待されている。さらに,このスピン熱電素子を同位体電池に組みあわせることができれば,次世代の発電方法の開発につながる大きな展望が開けるが,放射性同位体と共存する環境下でスピン熱電素子が性能をどの程度保つことができるか未確認だった。
そこで研究では,スピン熱電素子が放射線に耐性を持つことを検証するため,実際に加速器で高エネルギー放射線である重イオン線を照射し,過酷環境での耐用年数の見積もりを行なった。その結果,仮に熱源として放射性の使用済み核燃料を使い,スピン熱電素子をその近傍に直に配置した場合を想定しても,数百年にわたって発電性能の劣化が生じない見込みであることが分かった。
この研究は,エネルギー利用分野におけるスピントロニクス素子の重イオン線耐性を明らかにした初めての成果。今後研究を積み重ねることで,将来的には使用済み核燃料などの放射線環境下での廃熱を回収し,安全かつ有効に活用する新技術への展開に貢献することが期待されるとしている。