大阪大学の研究グループは,機械学習の援用により,高い波長分解により取得された膨大なスペクトルデータを大幅に削減することで,低い波長分解能しか有しない市販の低コストマルチチャネル分光器による高精度食品分析の実現に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
食品の含有物の種別分類や異物混入検出などにおいて,スペクトル分析は広く生産現場に導入されている。これまで高速・高精度分析性能を必要とする産業用スペクトル分析機器に,民生用の低コストマルチチャネル分光器を導入することは難しいと考えられていた。特に,その性能を維持したままでの更なる低コスト化が課題だった。
研究グループでは,副尺の技術を応用して,マルチチャネル分光器のセンササイズ限界を超える超波長分解法を2016年に世界で初めて開発した。このマルチチャネル分光器のセンサーサイズ限界による低波長分解能性の解決が可能な超波長分解能技術には,測定スペクトル点数に制限があり,膨大な測定スペクトル点数が必要となるスペクトル分析用のデータにそのままでは適用できない課題があった。
研究グループでは,機械学習の援用により高い波長分解により取得された膨大なスペクトルデータを,この超波長分解能法が適用可能なレベルまで大幅に圧縮することに成功した。実際には,データ量を数%程度までに圧縮することに成功した。これは,数nm程度の低い波長分解能しか有しない民生用の低コストマルチチャネル分光器により一桁程度高精度な波長分解を持つ高速スペクトル分析が低コストで可能となることを意味するという。
さらに,遙かに低い波長分解能しか有しない民生用のマルチチャネル分光器による高精度食品分析の実例として,オリーブオイルを対象とした分析実験に成功し,低コストな超波長分解高速スペクトル分析技術の産業応用の実現性を示した。
この研究成果により,これまで困難だった膨大な高精度スペクトルデータを分析する機器の高速・低コスト化が期待され,IoTの時代に膨大な数の導入が期待される高速・高精度・低コスト性を必要とする産業分野におけるインラインスペクトル分析機器への応用などが期待されるという。
また,スペクトル変化を伴う高速・高精度・低コスト産業用スペクトル分析が期待できるので,今回のオリーブオイルの分析のような工場のラインにおけるインライン食品分析を想定した応用に限らず,下水などのリアルタイム環境調査から健康モニタリングに至るまでの様々なIoT機器導入分野への展開が期待されるとしている。