原研ら,レーザー偏極装置で対称性の破れに迫る

日本原子力研究開発機構(原研),名古屋大学の研究グループは,スピンの揃った(偏極した)中性子を原子核が吸収した時に放出するガンマ線を測定したところ,その放出方向に偏りが存在し,その偏りが中性子のスピン方向に依存して変化することを世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

我々の住む宇宙は「物質」がほとんどで、「反物質」はほとんど存在しない。その理由として「CP対称性の破れ」が提唱されている。しかし,物質世界を説明できる「CP対称性の破れ」を表す現象はまだ見つかっていない。

素粒子原子核反応では,P対称性が破れていることが知られている。原子核が中性子を吸収する反応では,核子同士に働くP対称性の破れよりも100万倍も大きなP対称性の破れが実験的に観測されている。この非常に大きな「P対称性の破れ」は,原子核を構成している核子間で働く小さな「P対称性の破れ」が原子核内で非常に大きく増幅された結果であるというモデルがある。「P対称性の破れ」の増幅現象のメカニズムを明らかにすることで,「CP対称性の破れ」の謎の解明につながることが期待される。

そこで研究では,「P対称性の破れ」の増幅現象のメカニズムの検証のために,原子核の偏極中性子吸収反応に伴う,ガンマ線の放出方向の分布を測定する実験を行なった。

中性子の偏極には,J-PARCで開発した偏極装置(3Heスピンフィルター)を用いた。この装置は特殊なガラス容器の中に33Heとアルカリ金属が封入されている。このガラス容器に近赤外光レーザーを照射し,アルカリ金属のスピンを揃え,アルカリ金属が3He原子核とスピンを交換することにより,3He原子核のスピンを揃えることができる。

物質・生命科学実験施設(MLF)の中性子ビームラインで,偏極熱外中性子ビームを原子核に照射したところ,偏極した中性子を吸収した原子核から放出されるガンマ線の放出方向に偏りがあること,その偏りがスピンの向きによって変化することを世界で初めて発見した。

この実験で得られたガンマ線の放出方向と,「P対称性の破れ」の増幅現象のメカニズムのモデルが予測する放出方向の偏りを比較することで,モデルの検証を行なうことが可能となる。また,モデルの検証結果をもとに,原子核内での対称性の破れの増幅現象のメカニズムが解明されることが期待されるとしている。

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