東大ら,磁性体内の四重極磁石の空間分布を可視化


東京大学と東北大学は,四重極磁石をミクロなスピンで置き換えた四極子型スピン配列を示す反強磁性体について,四極子のプラスとマイナスの符号に依存して光吸収が変化する現象を発見し,これが線形電気磁気光学効果に起因することを明らかにした(ニュースリリース)。

電場によって磁化が,磁場によって電気分極が線形に誘起される線形電気磁気効果は,特定の対称性の要件を満たす磁性体で現れる現象。このような磁性体に光を通過させると,光の電場成分と磁場成分に比例した振動磁化と振動分極が物質中に誘起される「線形電気磁気光学効果」が生じ,これが光の伝搬にも影響を与える。

その結果,直線偏光や無偏光の吸収量が光の進行方向の正負で変化する方向二色性といった,従来の線形磁気光学効果とは質的に異なる非相反光学応答が現れることが知られていた。

またこの効果のもう一つの特徴として,マクロな磁化をもたない反強磁性体においても現れる点がある。したがってこの効果は,反強磁性体を使った新しい磁気光学素子の動作原理となり得るほか,反強磁性の性質を探る強力なプローブにもなり得る。

しかしながら,これまで反強磁性体で報告されていた線形電気磁気光学効果は大変小さく,この効果をプローブとして活用する研究は進められていなかった。

研究グループは,反強磁性体における線形電気磁気光学効果の研究の舞台として,Pb(TiO)Cu4(PO44に着目。この物質では,磁性を担う銅イオンが4つでひとつの磁気ユニットを形成し,これが四重極磁石をミクロなスピンで置き換えた四極子型スピン配列をとる。このスピン配列は,マクロな磁化を生み出さないながらも,線形電気磁気光学効果が現れる条件を満たす。

この結晶に可視光を入射した結果,互いに直交する二つの直線偏光の吸収量に違いが生じる「線二色性」が現れ,さらに,光の進行方向を反転すると線二色性の符号も反転することが分かった。これは,非相反線二色性と呼ぶべき新しい光学応答だという。

また,線二色性による吸収係数の相対的変化が約4%と,反強磁性体における電気磁気光学効果に比べて1~2桁も大きく,四極子のプラスとマイナスの入れ替によっても,線二色性の符号が反転することが分かった。

研究グループは,試料の各位置での線二色性を調べることで,試料内部における四極子のプラスとマイナスの分布(ドメイン)について,光学顕微鏡(偏光顕微鏡)により結晶の四極子ドメインを明瞭に可視化することに初めて成功した。

これにより,外部刺激に対する反強磁性ドメインの応答の解明や,反強磁性体を使った光磁気デバイス開発の加速が期待されるとしている。

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